毘沙門びしゃもん)” の例文
そのうち毘沙門びしゃもんの谷には、お移りになりまして二度目の青葉が濃くなって参ります。明けても暮れても谷の中はかしましい蝉時雨せみしぐればかり。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
特に用人小畑藤三郎おばたとうざぶろうは、中年者乍ら槍の名人、道中は長物を憚って、袋のままの手槍を毘沙門びしゃもん突きに、大きい眼を四方に配ります。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
『別にこれといって何一つ見る物もないし、ろくな店一つないようだがね。矢張り毘沙門びしゃもん様の御利益かな、アハアハハハ。』
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
まず総見寺毘沙門びしゃもんの舞台から見物し、表之門から三之門に入り、御殿主ごてんすから白洲まで来て、ここで、御慶ぎょけいを申しあげる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
併し此の年の三月十九日には、鞍馬毘沙門びしゃもんの化身と世人に畏怖せられて居た宗全も、本当に陣中に急逝したのである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでも強いてこちらが訊くので、山科は字小山というところで、大津ゆき電車の毘沙門びしゃもん前という停留場で降りて、五、六町いった百姓家だという。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
淵沢小十郎はすがめの赭黒あかぐろいごりごりしたおやじで胴は小さなうすぐらいはあったしてのひらは北島の毘沙門びしゃもんさんの病気をなおすための手形ぐらい大きく厚かった。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから神楽坂かぐらざか毘沙門びしゃもん縁日えんにちで八寸ばかりのこいを針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えてもしいとったら
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金堂の内部には本尊の薬師如来坐像ざぞうを中心に、弥勒みろく吉祥天きっしょうてん毘沙門びしゃもん、地蔵の仏体が並んでいるが、四とも平安時代の木造である。装飾らしいものは何もない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それから驚いて毘沙門びしゃもん様にがんがけをしたり、占者うらないしゃに見て貰うと、これは内々うち/\の者が取ったに違いないと申しましたから、みんなの文庫や葛籠つゞらを検めようと思って居ります
地蔵じぞうさまと毘沙門びしゃもんさまのおぞうの、あたまにもむねにも、手足にも、肩先かたさきにも、幾箇所いくかしょとなくかたなきずやきずがあって、おまけにおあしにはこてこてとどろさえついておりました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
毘沙門びしゃもんかなんかの縁日にはI商店の格子戸こうしどの前に夜店が並んだ。帳場で番頭や手代や、それからむすこのSちゃんといっしょに寄り集まっていろいろの遊戯や話をした。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二人は毘沙門びしゃもん様の裏門前から奥深く曲って行く横町のある片側に当って、その入口は左右から建込む待合の竹垣にかくされた極く静な人目にかからぬ露地の突当りに
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時には神楽坂かぐらざかへもつれて行き、毘沙門びしゃもん横丁の行きつけのうちで、山手のかわった雰囲気ふんいきのなかに、彼女を置いてみたり、ある時は向島の一号である年増としまの家へも連れて行き
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けさほど檀家だんかの縁日あきんどを狩りたてて、江戸じゅう総ざらえをいたさせましたら、耳なし浪人くまのおりを引き連れて、きょうから向こう三日間、四谷よつや毘沙門びしゃもんさまの境内で
武将だから毘沙門びしゃもんとか、八幡はちまんとかへ願えばまだしもいものを、愛宕山大権現へ願った。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
水の噴出をやめた毘沙門びしゃもんの像が月の光にさらされてきいろく立っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
八月十四日 渋谷慈鎧じがい真如堂より毘沙門びしゃもん門跡もんぜきに栄転せられしを祝す。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
そのうち毘沙門びしゃもんの谷には、お移りになりまして二度目の青葉が濃くなつて参ります。明けても暮れても谷の中はかしましい蝉時雨せみしぐればかり。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
吩咐いいつかって出向いていたが、山科の毘沙門びしゃもん附近で何者かに殺害され、しかもその死骸の首がなかったという
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢張り毘沙門びしゃもんの縁日なんかが主としてあずかって力があったんじゃないかと思うんだ。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
毘沙門びしゃもん提灯ちょうちんは年内に張りかえぬつもりか、色がめて暗いなかで揺れている。門前の屋台で職人が手拭てぬぐい半襷はんだすきにとって、しきりに寿司すしを握っている。露店の三馬さんまは光るほどに色が寒い。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毘沙門びしゃもんほこらの前あたりまで来て、矢田は立止って、向側の路地口ろじぐちを眺め
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ではさっそく、その地蔵じぞうさまと毘沙門びしゃもんさまにおまいりをしてよう。」
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それを紛らわそうと、そなたはよもや知るまいが、俺は夜闇にまぎれて毘沙門びしゃもん谷のあたりを両三度も徘徊はいかいしてみたぞ。姫があの寺へ移られたことは直きに耳に入ったからな。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
毘沙門びしゃもんとも見えれば矢大臣の像とも見えるし、またただの甲胄かっちゅうをつけた武人とも見える。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを紛らはさうと、そなたはよもや知るまいが、俺は夜闇にまぎれて毘沙門びしゃもん谷のあたりを両三度も徘徊はいかいしてみたぞ。姫があの寺へ移られたことは直きに耳に入つたからな。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)