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母君
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はゝぎみ
と
言ひながら
今しも
懷かしき
母君の
噂の
出でたるに、
逝にし
夜の
事ども
懷ひ
起して、
愁然たる
日出雄少年の
頭髮を
撫でつゝ
母君の
頼にキスして
行き給ふ愛らしさ、
傍目にも子を持たぬ人の覚え
能はぬ快さを覚え申し
候。
巴里とははや三時間も時の違ひ
候ふらん。
味気なく
候ふかな。
惑ひし
眼に
邪正は
分け
難し、
鑑定は
一重に
御眼鏡に
任さんのみと、
恥たる
色もなく
陳べらるゝに、
母君一ト
度は
惘れもしつ
驚ろきもせしものゝ、
斯くまで
熱心の
極まりには
さりとて
今更問はんもうしろめたかるべしなんど、
迷ひには
智惠の
鏡も
曇りはてゝや、五
里の
夢中に
彷徨しが、
流石に
定むる
所ありけん、
慈愛二となき
母君に、
一日しか/″\と
打明けられぬ
『あら、あら、あの
音は——。』と
日出雄少年は
眼をまん
丸にして
母君の
優しき
顏を
仰ぐと、
春枝夫人は
默然として、
其良君を
見る。
濱島武文は
靜かに
立上つて