機織はたお)” の例文
ランプの灯を慕って来たらしい機織はたおり虫が天井で鳴き出しました。三津子さんは縁側に出て、空を眺めているようでした。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鳥鳴き、花咲き、潺湲せんかんたる水音みずおとと静かな山嵐さんらん——、そして、機織はたおりの歌とおさの音がどこかにのんびりと聞こえている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の仕事は機織はたおりであつて即ち甲斐絹かいきを織り出すのである。その甲斐絹を織る事は存外利の多いものであつて一疋いっぴきに二、三円の利を見る事がある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
梅雨の間に機織はたおり、夜具の洗濯、一年中の晴れ着の始末をなさるのですが、その間にも裁縫や刺繍を頼んで参りました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昔は機織はたおりが全国の女性の仕事であったように、これとよくにた昔話も、ひろく日本のすみずみに行われていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おんなは、機織はたおりのいえに、二めにとついだのであります。そして、今度こんどは、一にちじゅうはたって、おっと仕事しごとたすけました。おっとは、また、つまをかわいがりました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
機織はたおりの声が致すのは、そのほうにも聞えような。これを題に一首つかまつれ。」と、御声がかりがございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして機織はたおりの仕事に就いた。ここでもねっから仕事が出来なかった。ここの担当は時々私に拳固をくれた。痛いので私はそのつどくびをちぢめ、手をあげふせいだ。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
また錘石おもりいしといふのがあります。それはひらたい石塊いしころ上下じようげすこいて紐絲ひもいとけるのに便利べんりにしてあるもので、あみおもりとか、機織はたおりに使用しようしたものかといはれてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
到底農家に来りてれぬ養蚕機織はたおりのわざを執り得べき身ならねば、一日も早く資金を造りて、各〻おのおの長ずる道により、世に立つこそよけれとさとりければ、再び両親に向かいて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一隅に羊毛の大袋があって、紡ぐばかりになっていたし、また別の隅には、機織はたおり機械から下ろしたばかりの麻と毛とを交ぜたたくさんの織物や、玉蜀黍の穂が置いてあった。
わたしどもは、機織はたおりでして、みなさんの思いもおよばない、美しい織物を織ることができます。それに、その織物は色とがらとが、びっくりするほど美しいばかりではございません。
空気は重くとざして隙間すきまもなし。いさましく機織はたおる響のごとく、蜜蜂みつばちの群は果実くだものにおひにかしましくも喜び叫ぶ。われその蒸暑き庭の小径こみちを去れば、緑なす若き葡萄ぶどう畠中はたなかの、こゝは曲りし道のはて
機織はたおり工場がございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それがねえ、お父様。お叱りになってはいけないのですよ。妾もどこに行ったろうと思って探して見ると、二人とも機織はたおり部屋に行って糸をつむいでいるのです」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
所が、千五百五年になると、ボヘミアで、ココトと云う機織はたおりが、六十年以前にその祖父の埋めた財宝を彼の助けを借りて、発掘する事が出来た。そればかりではない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五色いついろの色の機織はたお
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとえば、ある秋の夜に、月の光が格子にさして、機織はたおりの声が致して居りました時、ふと人を御召しになると、新参の侍が参りましたが、どう思召したのか、急にその侍に御向いなすって
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五色いついろの色の機織はたお
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右篠と申候は、百姓惣兵衛の三女に有之これあり、十年以前与作方へ縁付き、里をまうけ候も、程なく夫に先立たれ、爾後再縁も仕らず、機織はたお乃至ないし賃仕事など致し候うて、その日を糊口ここうし居る者に御座候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「みどりの糸をくりおきて夏へて秋は機織はたおりぞ啼く。」と、さわやかに詠じますと、たちまちそれは静まり返って、萩模様のある直垂ひたたれを一領、格子の間から月の光の中へ、押し出して下さいました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「××町? 機織はたおの多い町だったね。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)