くすのき)” の例文
桜とか柘榴ざくろとか梨とか松とかくすのきとかもみとかいうものと比較したら、やはり草花としての相似点を持っているといわねばならぬ。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一つが十銭か二十銭位だったから一円貰う為にはそんなものを可成拵えなければならぬわけだ。材はよくくすのきを使っていた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
與吉よきちはとみかうみて、かたのあたり、むねのあたり、ひざうへひざまづいてるあしあひだ落溜おちたまつた、うづたかい、木屑きくづつもつたのを、くすのきでないかとおもつてゾツとした。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くすのきの若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑のなかへ登りつめてゆく心持。長崎独特の趣きがある。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
幾百年と経った大木のくすのきは樹皮は禿げ、枝は裂けていい寂色さびいろに古びている。そのこずえ群青ぐんじょうからすがはたはたと動かしてとまる。かおォかおォである。古風な白帝城。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
發行部數の多い婦人雜誌や投書家相手の雜誌に寄稿しない爲めもあつたらうが、彼の筆名くすのきけう太郎は、十年間文壇に介在しながら、大多數の人には新しい印象を與へた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
少年のくらくらするような気持で仰ぎ見た国泰寺のくすのきの大樹の青葉若葉、……そんなことを考えふけっていると、いま頭のなかはうずくように緑のかがやきで一杯になってゆくようだった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
北側はぬまと云う池つづきで、池のまわりは三抱えもあろうと云うくすのきばかりだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これで老爺おやじめ、会心の笑みを洩らすことであろうと私は内心待ち構えていると、彼は不愛想に私の手から鉛筆を引ったくって、非常に事務的に私の「楠」の字を消してそのそばへ「くすのき」と訂正した。
クロモジのモジはもとはモンジヤといったようで、しかもその語原はわからない。古い時代のさかきには、「をかぐはしみ」という歌もあって、或いはくすのき科の木をそうったものがあるのかとも思う。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くすのきのような大木に
南からの種子 (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
巨大なるこのくすのきらさないために、板屋根をいた、小屋の高さは十じょうもあろう、脚の着いた台に寄せかけたのが突立つッたって、殆ど屋根裏に届くばかり。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鹿児島市中では、くすのきの若葉の下を白絣の浴衣がけの老人が通るという夏景色であった。反射の強い日光を洋傘一つにさけて島津家の庭を観、集成館を見物し、城山に登る。
巨大きよだいなるくすのきらさないために、板屋根いたやねいた、小屋こやたかさは十ぢやうもあらう、あしいただいせかけたのが突立つツたつて、ほとん屋根裏やねうらとゞくばかり。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
由子は、くすのきの角机に肱をつき目前の景色に眺め入っていた。樟は香高い木だ。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
余り静かだから、しばらくして、又しばらくして、くすのきごとにぼろぼろと落つる木屑きくず判然はっきりきこえる。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あましづかだから、しばらくして、またしばらくして、くすのきごとにぼろ/\とつる木屑きくづ判然はつきりきこえる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と思い思い、又この偉大なるくすのきほとんど神聖に感じらるるばかりな巨材を仰ぐ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)