たかどの)” の例文
旧字:
ゆふつかた娘の風の心地に、いと寒しと云へば、たかどのへ往きてふすまかづきて寝よと云ひしかど、一人往かむはさうざうし、誰にまれ共に往きてよと云ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
くれないあけぼの、緑の暮、花のたかどの、柳の小家こいえ出入ではいりして、遊里にれていたのであるが、可懐なつかしく尋ね寄り、用あって音信おとずれた、くさきざきは、残らずかかえであり、わけであり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蓮華夫人はそれを聞くと、城の上のたかどのに登って、「わたしはお前たち五百人の母だ。その証拠はここにある。」と云う。そうして乳を出しながら、美しい手にしぼって見せる。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして水のほとりのたかどののうえからかまたはお庭をそぞろあるきなさりながらか川上の方を御覧になって「やまもとかすむみなせ川」の感興をおもらしになったのであろう。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その建物には二層のたかどのがあって、楼上から、晴れた日には富士が見えるという。
たかどのを下りてここに来たるは僅少わづかひまなれば、よもかの人はいまだ帰らざるべし、若しここに出できたらば如何いかにすべきなど、さすがに可恐おそろしきやうにも覚えて、あゆみは運べど地を踏める心地も無く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
余は手袋をはめ、少し汚れたる外套を背におほひて手をば通さず帽を取りてエリスに接吻してたかどのを下りつ。彼は凍れる窻を明け、乱れし髪を朔風さくふうに吹かせて余が乗りし車を見送りぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
紫玉は、中高な顔に、深く月影に透かして差覗さしのぞいて、千尋ちひろふち水底みなそこに、いま落ちた玉の緑に似た、門と柱と、欄干と、あれ、森のこずえ白鷺しらさぎの影さえ宿る、やぐらと、窓と、たかどのと、美しい住家すみかた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余は手袋をはめ、少しよごれたる外套がいとうを背におおいて手をば通さず帽を取りてエリスに接吻せっぷんしてたかどのをくだりつ。彼は凍れる窓をあけ、乱れし髪を朔風さくふうに吹かせて余が乗りし車を見送りぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紫玉は、中高なかだかな顔に、深く月影に透かして差覗さしのぞいて、千尋ちひろふち水底みなそこに、いま落ちた玉の緑に似た、門と柱と、欄干らんかんと、あれ、森のこずえ白鷺しらさぎの影さへ宿る、やぐらと、窓と、たかどのと、美しい住家すみかた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
余は彼の燈火ともしびの海を渡り来て、この狭く薄暗きこうぢに入り、楼上の木欄おばしまに干したる敷布、襦袢はだぎなどまだ取入れぬ人家、頬髭長き猶太ユダヤ教徒のおきな戸前こぜんたゝずみたる居酒屋、一つのはしごは直ちにたかどのに達し
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
日がって医王山へ花を採りに、私の手をいて、たかどのに朱の欄干てすりのある、温泉宿を忍んで裏口から朝月夜あさづきよに、田圃道たんぼみちへ出た時は、中形ちゅうがた浴衣ゆかた襦子しゅすの帯をしめて、鎌を一挺、手拭てぬぐいにくるんでいたです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はかの燈火ともしびの海を渡り来て、この狭く薄暗きこうじり、楼上の木欄おばしましたる敷布、襦袢はだぎなどまだ取り入れぬ人家、頬髭ほおひげ長き猶太ユダヤ教徒のおきな戸前こぜんたたずみたる居酒屋、一つのはしごはただちにたかどのに達し
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)