書見しょけん)” の例文
鴎外が芝居しばいを見に行ったら、ちょうど舞台では、色のあくまでも白いさむらいが、部屋の中央に端坐たんざし、「どれ、書見しょけんなと、いたそうか。」
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
独身で暮すやもおに似ず、ごく内気でございますから、外出そとでも致さず閉籠とじこもり、鬱々うつ/\書見しょけんのみして居りますところへ、或日あるひ志丈が尋ねて参り
或日のこと、鶴見は書見しょけんをしていた。机の上には開かれた一冊の書物が載っている。鶴見はその本の中で、南欧の美しい風景を心ゆくばかり眺めている。
かれ書見しょけんは、イワン、デミトリチのように神経的しんけいてきに、迅速じんそくむのではなく、しずかとおして、ったところ了解りょうかいところは、とどまとどまりしながらんでく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかないあんの中には、三十前後の小柄な男が書見しょけんしていたが、人の跫音あしおとを聞いて顔をあげた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
書見しょけんをしているか、書き物をしているか、彼は彼で日記をつけているか、それともボンヤリ考えごとをしているか等々のことは、おおよそ私に察知できるような気がするのだが
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分はまだ一度も行った事がないが病後の事であるからと思うて座敷で書見しょけんをしている父上に行ってもよう御座いましょかと聞くと行くはよいが傘をさして行けとの事であったから
鴫つき (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はしばらくそこにすわったまま書見しょけんをしました。宅の中がしんと静まって、だれの話し声も聞こえないうちに、初冬はつふゆの寒さとびしさとが、私の身体からだに食い込むような感じがしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
約束はしたが、こんなに雨が降っちゃやつも出て来ないだろうと、その人はうちにいて、しょうことなしの書見しょけんなどしていると、昼近くなった時分に吉はやって来た。庭口からまわらせる。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幸いそこに先祖から伝わった古い書物が沢山たくさん積んでありましたので、薄暗い所で、夜などは昔ながらの雪洞ぼんぼりをともして、一人ぼっちで書見しょけんをするのが、あの人の、もっと若い時分からの
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
書見しょけんにでも飽きたか、同じく御書院番の一人で浅香慶之助、三十四、五のちょいとした男ぶりだ。縁側にちかい部屋の敷居しきいぎわまで出て来て、思い出したように、しきりに爪を切っているところ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三児は遊びに飽きると時々自分の書見しょけんの室に襲うてくる。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
検事は書見しょけんをやめて、大きな机の陰から顔をあげた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「こりゃ、ご書見しょけんのところを……」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
君のような書見しょけんばかりして鬱々うつ/\としてはいけませんよ、先刻さっき残酒ざんしゅ此処こゝにあるから一杯あがれよ…んですね、いやです…それではひとりで頂戴いたします
このうえなき満足まんぞくもっ書見しょけんふけるのである、かれ月給げっきゅう受取うけとると半分はんぶん書物しょもつうのについやす、その六りているへやの三つには、書物しょもつ古雑誌ふるざっしとでほとんどうずまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
長時間坐っているのには、あぐらを組むよりも正坐が好ましい。合理的でもある。鶴見はそう思って、机に向うときはいつも正坐をする。書見しょけんをするにも体が引締められて、まともに本が読める。
すると春が過ぎて、夏になって、この青年の事もいつか忘れるようになった或日、——その日は日に遠い座敷の真中に、単衣ひとえただ一枚つけて、じっと書見しょけんをしていてさええがたいほどに暑かった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いえにいるときもいつもよこになっては、やはり、書見しょけんけっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
中に囲炉裏いろりを切って、鉄瓶てつびんが鳴る。和尚は向側に書見しょけんをしていた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)