早鐘はやがね)” の例文
と、「逃げたらなお悪い」と、心の奥に何かが力ある命令を発して彼を留まらせた。動悸どうき早鐘はやがねの様に打って頭の上まで響いて行った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
三郎兵衛のいう半分も耳に入らないようなひとみのうごきである。恟々きょうきょう早鐘はやがねをつくような胸が、じっと、黙っていられないように
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見たとき、神谷青年はある予感にうちのめされて、心臓は早鐘はやがねをつくように騒ぎはじめたのだが、といって、見ないわけにはいかぬ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
些細ささいなことにも直ぐに心臓どきッと早鐘はやがね打つようになってましたのんに、夫に帰って来られてはその折角せっかくの幸福へヒビが入るように感じたのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
嬉しいのだか悲しいのだか恥しいのだか心臓は早鐘はやがねを打つごとく息は荒かった。何んでもその時の状態は三分間も彼の記憶にとどまらなかったのである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
と、我知らず早鐘はやがねを打ちだした胸を押えて、露っぽい草をきわけながら、近寄ってみると
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まへに、身體からだ一大事いちだいじつたときに、あのかねかされましたのがみゝいて……むしなかでも、あれが、かねたゝきとおもふばかりで、早鐘はやがねきますやうなむねをどつたんです……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ただもう自分が糺明を受けているような気がして、胸は早鐘はやがねくように動悸どうきを打った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
自分の軽い足音が、わたしを当惑とうわくさせもすれば、はげましてもくれた。わたしは時々立ち止って、何ものかを待ち受けながら、自分の心臓が早鐘はやがねのように高鳴るのに耳をすました。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「これほどつたないとは思わなかった、印刷して見ると我ながら拙なくて読むに堪えない」と、読終った時は心が早鐘はやがねを突く如くワクワクして容易に沈着いていられなかったとある。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
竹の藪蔭やぶかげから高くあがる火竜の勢いと、その火の子をながめて、ホッと吐息をついた時、弁信の耳には、それが早鐘はやがねのように聞え、その口が、耳までさけているように見えましたものですから
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
房枝の胸は、それを考えついたとき、まるで早鐘はやがねのように鳴りだした。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ、自分じぶんだけが、かえってきませんでした。おかあさんのむねは、早鐘はやがねつように、どきどきとしました。そして、改札口かいさつぐちのところまできて、階段かいだん見上みあげて、いまか、いまかとっていました。
夕焼けがうすれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうしたわけか胸が早鐘はやがねをうつてゐました。もつともそれは、ほとんど絶え間なしに本堂のあたりから吹きおろしてくる風に傘をうばはれまいとする、その努力のせゐも手伝つてゐたかも知れません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
なが胸をこが早鐘はやがね、陰々と、とよもすおと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
乱撃らんげきよ、早鐘はやがね急に
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
早鐘はやがね
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
小泉君の心臓は、早鐘はやがねをつくように、ドキドキしてきました。ああ、ぼくはどうなるのだろう。今にどんなおそろしいことがおこるのだろうと思うと、もうじっとしてはいられません。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこには十分な要害ようがいもあるし、宿直とのいの備えもあるので、万が一にも、まだ不吉なことはない筈とは思うのであったが、もう胸は早鐘はやがねいている。何としても、大殿と嫡子の安否が気づかわれる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを思い出すごとにお浜の胸の中で早鐘はやがねが鳴ります。
なが胸を焦す早鐘はやがね、陰々と、とよもすおと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
房枝の胸は、早鐘はやがねのようになりだした。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早鐘はやがね
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
鎧櫃よろいびつの上に、ドッカと腰かけた形に飾ってある、中味はがらんどうの陳列品だ。黄金仮面の小雪は、その鎧櫃に倒れる様に凭れかかっていた。早鐘はやがねの動悸は静めようとて静まるものではない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、さりなく聞いていたものの、竹童ちくどうむね早鐘はやがねをついている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早鐘はやがね
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
そして、にわかに早まった動悸どうきが、耳許で早鐘はやがねの様に鳴り響きました。その算盤には彼のと同じ暗号で「ゆきます」とおかれてあったのです。S子が彼に残して行った返事でなくてなんでしょう。
算盤が恋を語る話 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)