新田しんでん)” の例文
又しても名所図絵を引合ひに出すやうであるが、それによると、夜啼石の由来といふものを一枚ずりにして小夜新田しんでんの茶店で売つてゐる。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ところが、その古くからの荘園も、新田しんでんも、兄上が十三年もお留守のまに、みな三家の叔父が、各〻めいめい、分けてしまいました」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「村で一番出世をしたのは、小池はんと、新田しんでんの五郎作やがな。すもん(角力)でもあつてみい、五郎作の名は毎日々々新聞に出んことあれへん。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
四十七歳の越前守えちぜんのかみ大岡忠相おおおかただすけは、あらたに目安箱を置き、新田しんでん取り立ての高札を立てなどして、江戸南町奉行としてめざましい活躍をしたときだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伏見屋の控え林では比丘尼寺びくにでらで十二本ほどの大木が吹き折られ、青野原向こうの新田しんでんで二十本余の松が吹き折られ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信州南安曇あずみでは新田しんでんの市、北安曇では千国ちくにの市などに、暮の市日いちびに限って山姥が買物に出るという話があった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
笑やアがって……あれまア肥料桶こいたごかたげ出しやアがった、たごをかたせ、アヽ桶をおろして挨拶しているが……あゝ兼だ新田しんでんの兼だ、御厄介ごやっけいになった男だからなア
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なになに新田しんでんなどという地名の多い、まったくの田舎であって、田畑や沼地や風よけの疎林がうちわたして見え、晴れた日には筑波山まではっきり眺められる。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「うん、でも、歩いて見たかったの、芒村のげむらから、横浜新田しんでんを眺めた、昔の絵が実によかったものだから。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あの今晩ね、いつか言ってた文化会の相談を光村先生のおうちでやるから、あなたも出てくれない? 女子青年会の方からも、新田しんでんのお藤さんや米子さんなぞも出るの。
鈴が通る (新字新仮名) / 三好十郎(著)
新田しんでん太郎兵衞たろべゑがうまいことつた。小助こすけふさぐなら蚯蚓みゝずせんじてませろと。なにが、くすりだとすゝめるものも、やれ赤蛙あかがへることの、蚯蚓みゝずことの、生姜しやうがれずの煎法せんぱふで。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西瓜すゐくわが食べたくなつて態々わざ/\京都から大きな新田しんでん西瓜の初物を取り寄せたといふ話や、村へ来た時百人余りの小学校の生徒全部へ土産として饅頭を贈つたことや、馬に乗りたくなつたとて
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
新田しんでんの仁兵衛が高らかに陸稲おかぼの自慢をする、沢井の太平が大根の太いことを語ると、山崎の文五郎が刀豆なたまめの出来栄えを心配する、草花の娘ッ子はよく働くが、淵の上の後家はおしゃらくだ
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
以て一通ひととほり吟味ぎんみこれあり安五郎は揚屋あがりやいり儀左衞門は入牢じゆらう同人女房粂は長屋預け申付られ駿府御代官太田三郎四郎殿へ柴屋寺住持ぢうぢを差出す樣又遠州相良本多さがらほんだ長門守殿家來へ同領内上新田しんでん無量庵むりやうあん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
赤錬瓦塀の上に地獄のやうな硝子がらすかけを立てた厭な所です。夕方と朝に髪へ綿くづを附けた哀れな工女が街々から通つて行く所は其処そこなのです。その前は新田しんでんと云つて、埋立地の田畑になつて居ます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
新田しんでんのお兄さん、しっかり!」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うわアい! 新田しんでんの次郎作どんや、ちょっくら突ん出て見なせえや! いくさかおっぱじまっただアよ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吾妻あずま橋を渡って、本所を通り越して、深川の果ての果て、砂村新田しんでんの稲荷前にゆき着いたのは八幡の鐘がもう夕七つ(午後四時)を撞き出したあとで、春といってもまだ日晷ひあしの短いこの頃の夕風は
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
婆「へい、居りやんす、新田しんでんの角さんが来やしたよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
落し置是でよしとて翌朝領主りやうしゆの役場へ出惣内夫婦昨夜大井河原おほゐがはら下伊呂村にて切殺され罷在まかりある由人の知せにより早速さつそく馳付はせつけ見屆候處全く同人夫婦に相違無之其傍邊に九助の紙入おち之有これあるにより同人所わざと存じ候旨訴へに及びけりこゝに又九助の女房お節は今年ことし實母じつぼの七回忌くわいきにも當るに付上新田しんでん無量庵むりやうあん住職ぢうしよく大源だいげん和尚と申は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)