ずり)” の例文
ここで夫婦は戸外へ出て一夜を明かしたところで、際物師の書肆が来て、地震の趣向で何か一枚ずりをこしらえてくれと言った。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それでも稲舟と結婚した時は両人連名で益々御愛顧を願うというような開業の引札然たる活版ずりの通知を交友間に配った。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そのころは、まだ写真術が幼稚だったし、新聞の号外もまだ早く出なかったから、私たちに目から教えたものは、やはり木版ずり三枚つづきの錦絵にしきえだった。
御守殿お茂与というのは一時深川の岡場所で鳴らしたしたたか者で、大名の留守居や、浅黄裏あさぎうらの工面の良いのを悩ませ一枚ずりにまでうたわれた名代の女だったのです。
奧州名物の信夫しのぶもぢずり、野田の玉川、あさかの沼、鹽釜櫻しほがまざくら御覽ごらうじたかなどと云ふ。こつちは得たり賢しと、勿體らしくこの歌を持ち出して、あき風ぞ吹く白河の關……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いつでも持って来ただけの金はここでってしまう春作なのである。これから、火の気もない家へ帰って、一枚ずり彩絵いろえ読本よみほん挿絵さしえを描く気にもなれないのであろう。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして痛む脚を引きずりながら、塹壕の斜面についた階段を、くるしそうに登っていった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これよりさき、明治二十一、二年頃、石版ずりの裸体画が一時絵双紙屋の店頭に跋扈ばっこし、もちろん非美術的の代物で後には禁止されたが、この時すでに錦絵ももう末だなと感じた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
活版ずりの問題が配られたので恐る恐るそれを取つて一見すると五問ほどある英文の中で自分に読めるのは殆どない。第一に知らない字が多いのだから考へやうもこじつけやうもない。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
で、この辺に住んで居るのはチベット人ばかりでネパール種族は居りませぬ。ですからその屋根の隅々には皆白い旗を立ててありましてその旗には真言の文句を木版ずりにしてあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「相川さん、遅刻届は活版ずりにしてお置きなすったら、奈何いかがです」などと、小癪こしゃくなことをぬかす受付の小使までも、心の中では彼の貴い性質を尊敬して、普通の会社員と同じようには見ていない。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
野々宮さんは目ろく記号しるしけるために、隠袋かくしへ手を入れて鉛筆をさがした。鉛筆がなくつて、一枚の活版ずり端書はがきた。見ると、美禰子の結婚披露の招待状であつた。披露はとうにんだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
御守殿お茂與といふのは一時深川の岡場所で鳴らしたしたゝか者で、大名の留守居や、淺黄裏あさぎうらの工面の良いのを惱ませ一枚ずりにまでうたはれた名代の女だつたのです。
こめたはらよりぜに蟇口がまぐちよりいづ結構けつこうなかなに不足ふそく行倒ゆきだふれの茶番ちやばん狂言きやうげんする事かとノンキに太平楽たいへいらく云ふて、自作じさく小説せうせつ何十遍なんじつぺんずりとかの色表紙いろべうしけて売出うりだされ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
はなおどしの草ずりをゆりうごかして、戞々かつかつと、退いて来た強者つわものがある。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)