掛金かけがね)” の例文
たかえ」それでも卯平うへい呶鳴どなつてたが返辭へんじがない。卯平うへいくちうちつぶやいて裏戸口うらとぐちまはつてたら其處そこうちから掛金かけがねかゝつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「奥さん!」——ものの二ふんもしたかと思うとき、掛金かけがねのかかったカテリーナ・リヴォーヴナの部屋の戸の向うで、誰やら言った者がある。
庭の飛石とびいし下駄げたの音がした。平三郎は何人たれであろうと思いながら、やはり本を読んでいた。枝折戸しおりど掛金かけがねをはずす音が聞えた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「しかし、あなたは今どうしてここへはいっておいでになりました。だってね、門の戸は一時間ばかり前に、ちゃんと掛金かけがねをかけておいたんですよ」
けれども、さびついた掛金かけがねをおすと、それがうまくはずれて、戸があきました。そこで、ゲルダは、はだしのまま、広い世の中へかけ出していきました。
寝室の窓から、彼が来たことを見ていた三十すぎのユーブカをつけた女は戸口へ廻って内から掛金かけがねをはずした。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
風呂場、不浄ふじょう、水口、縁先等、いま一度、戸締りを見ろ。掛金かけがねさん、その他に異常なきやを確めるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今一度小さな手がスウッと這入って来て、掛金かけがねの位置を軽く撫でたと思うと又、スルリと引込んだ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掛金かけがねをはずすために手をあげる段になってはじめて我に返るような場合には、帰宅したあとでわたしはわたしの歩いたひと足も思い出すことができず、この調子では
「これが木戸だろうか、掛金かけがね何処どこるの。こんな木戸なんか有るも無いも同じことだ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
雨戸の内側に通しの大かんぬきをはめ込み、一枚々々は、外から絶對にはづされないばかりでなく、さん掛金かけがね心張しんばりで三ヶ所も留めて、更に犬を飼ひ、飛道具まで用意してありました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
夫人に銃口を向けたまま後ろ手に、扉の掛金かけがねを外す。毒蛇コブラを先頭に探偵が二人、筒先揃えて殺到してきた。なんだ、なんだ! と後から引っ切りなしに、旅客が押し寄せてくる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「はははは、わしぐらいの年のばあさまじゃ、お目出たい事いの。位牌になって嫁入よめいりにござらっしゃる、南無妙。戸は閉めてきたがの、開けさっしゃりませ、掛金かけがねも何にもない、南無妙、」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掛金かけがねだけは掛けずに置いた。十時過ぎまで待った。到頭お俊は帰らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
腕はえて居るし、刃物きれものは良し、又九郎横倒れにたおれるのを見てばゞあは逃出そうと上総戸かずさどへ手を掛けましたが、余り締りを厳重にして御座いまして、栓張しんばりを取って、掛金かけがねを外す間もございません
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれはそれでも煙管きせるして隙間すきまから掛金かけがねをぐつといたらせんさしてなかつたのですぐはづれた。かれくらしきゐまたいでたもと燐寸マツチをすつとけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それからまた一分ほどすると、階下した掛金かけがねのはね返る音がして、戸がギイとあいた。
勘次かんじはぽつさりとつてるおつぎをきのめすやう戸口とぐちおくつてがらりとぢて掛金かけがねけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)