指揮さしづ)” の例文
時計のやうに正確に——これが座右の銘でもあり、生徒に説いて聞かせる教訓でもあり、また職員一同を指揮さしづする時の精神でもある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
桝組も椽配たるきわりも我が為る日には我の勝手、何所から何所まで一寸たりとも人の指揮さしづは決して受けぬ、善いも悪いも一人で脊負つて立つ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
女組は一先ひとまづ別室に休息した。富江一人は彼室あつちへ行き此室こつちへ行き、宛然さながら我家の様に振舞つた。お柳はあさつから口喧しく台所を指揮さしづしてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一日を子供の世話と雇人やとひにん等の指揮さしづとに疲れ切つて、夕暮のゴタ/\した勝手元で、大きな戸棚の中へ首を突ツ込んで
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
とてもの事に明日からは、私に隠居をさせてくれて、家の事はいつさい万端、お前が指揮さしづするやうに、旦那様へお前から、お願ひ申しておくれでないか。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
うやまふ武士の面目めんぼくさもあるべし因て兩人は人殺しのつみさしゆるせば此旨有難ありがたく心得よ夫と指揮さしづに小役人は二人が繩目なはめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯學しがく熱心ねつしんなるこうは、焚火たきびにもあたられず、たゞちに車夫しやふ指揮さしづして、あな上部じやうぶはう發掘はつくつはしめられた。
下の家とはわづか十間位しか離れて居らぬので、母屋おもやでは既に大騒を遣つて居る様子で、やれ水を運べのをけを持つて来いのと老主人が声を限りに指揮さしづする気勢けはひ分明はつきりと手に取るやうに聞える。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
富江一人は彼室あちらへ行き此室こちらへ行き、宛然さながら我家の樣に振舞つた。お柳は朝から口喧しく臺所を指揮さしづしてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
上野町なる名主の方へ送り遣はせしてまたかく込合こみあふなかなれば其具足櫃大小等は其方ども持參せよと指揮さしづあるに同心はかしこまり候とて直樣すぐさま手早く具足櫃を脊負せおひ差替の大小九寸五分其外都合五本のかたな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
屠手の頭は手も庖丁も紅く血潮にまみれ乍ら、あちこちと小屋の内を廻つて指揮さしづする。そこには竹箒たけばうきで牛のあぶらを掃いて居るものがあり、こゝには砥石を出して出刃を磨いで居るものもあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
煙草たばこの好きな叔母が煙管きせるを離さずに、雇人やとひにん指揮さしづしていそがしい店を切盛きりもりしてゐるさまも見えるやうで、其の忙がしい中で、をひの好きな蒲鉾かまぼこなぞを取り寄せてゐることも想像されないではなかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
眼の前では我が指揮さしづに従ひ働くやうなれど、蔭では勝手に怠惰なまけるやらそしるやら散〻に茶にして居て、表面うはべこそつくろへ誰一人真実仕事を好くせうといふ意気組持つて仕てくるゝものは無いは、ゑゝ情無い
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
隠居の勘解由かげゆはモウ六十の坂を越して体も弱つてゐるが、小心な、一時間もむだには過されぬと言つたたちなので、小作に任せぬ家の周囲まはりの菜園から桑畑林檎畑の手入、皆自分が手づから指揮さしづして
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
大岡殿或時あるとき役人をよば瀬川せがはけんの盜賊共數日になれども更に行方ゆくへ知れずよつて其方共名主なぬしかゝり江戸中の外療醫ぐわいれうい吟味ぎんみして見よ似寄によりの者あるべきぞと指揮さしづありしに付八方へ分れて名主なぬしへ掛り外療醫者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)