寝台ベッド)” の例文
旧字:寢臺
二月下旬に、佃の健康は、学校へ出勤しないこと、朝おそくまで寝台ベッドにいること、夜外出できないことぐらいで、殆ど平常に復した。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
……といったような事をあえぎ喘ぎ云いながら水夫長は、寝台ベッドの上に引っくり返って、ブランデーをガブガブと喇叭らっぱ飲みにしていた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どんな豪華なホテルの寝台ベッドよりも、数年振りに懐かしい故国で、ゆったりと寛ぐ安易さを、しみじみと感ぜずにはいられませんでした。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
寝台ベッドに腰をかけている犯人は、細巻の女煙草を紅いくちにくわえ、煙たそうに眼を細めながら、妖美な顔をよけい妖美にしかめている。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらくして顔を上げると、寝台ベッドの向う側にすがり付いた家庭教師の山北道子が、これも身も浮くばかり泣き入って居ります。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私が寝台ベッドろうとすると、ノックして入って来たのは園さんで、空はすっかり晴れ、この模様では、明日の山上も日本晴れになりそうだから
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
そして私は、頭の中に火の車が廻っているようなのを感じながら嘔吐おうとをも催し、精も根も無くなって、寝台ベッドの上へどっと突伏して了うのであった。
新田青年は再び寝台ベッドよこたわり、静かな気持で事件を考え直してみた。——幾ら考えても、然しそれは謎のまた謎である。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
計画どおりに進んで、マタ・アリの嬌魅きょうみが、殿下をドロテイン街の家へきよせる。応接間を通り越して、彼女の寝台ベッドへまでき寄せてしまった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
瑠璃子も、寝台ベッドの中で、暫らくの間は、眠り悩んでゐたやうだつたが、その裡に、おだやかないびきの声が聞え初めた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彼は井桁形に建てられた家の高い部屋まで攀じ上ると、顧みられぬがちの寝台ベッドの上に衣服のままで身を投げかけ、その枕は徒らな涙で濡れるのであった。
それから一時間も経った頃、私とその娘とは上の町の、迚も華麗な寝台ベッドづきの部屋で、静に話して居りました。
林檎りんごのように血色けっしょくのいい看護婦が叫んだ。彼女のっている前には、一つの空ッぽの寝台ベッドがあった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝台ベッドの上には、三十を越してまだいくらにもならないと思われる男が、死んだように横たわっている。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
で、私は、右肩うけんから左の腋下わきしたにかけて、胸部一面に繃帯をした軽い身体の背部に手を差し入れ、脳貧血を起させぬよう、極めて注意深く、寝台ベッドの上に起してやった。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
暫く待ってもどの窓にも燈火ともしびの影さえささず、ひっそりとして屋内に人の気配もせぬ。彼奴、あかりもともさず、あのまま寝台ベッドへもぐり込んでしまったのであろうか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこの寝台ベッドの上には、蝋色をした朝枝の身体が、呼吸もなく、長々と横たわっていたからである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「もしおれが、最初一回飛び損なっても」——ジャックは言った——「水浴びをするだけのことだ。痛かったところで知れたもの、上等な寝台ベッドの上に落ちるのと違いはない」
(註一七)さあ、さあ、力を出すんだ。今度だけは手伝って寝台ベッドまでつれて行ってやるよ。
「どうぞ」と言いながら椅子をすすめたまま、自分は寝台ベッドの向こう側へ回った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほら、波の音が聞えませう。燈火あかりを消して、寝台ベッドに寝てをりますと、なんですか、自分のからだが、部屋ごと動いて行くやうな気がいたしますの。いゝえ、さういふ時ばかりぢやございません。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そして寝台ベッドの斜め後方の壁が一フィートばかりも刳り抜かれて、中はおそらく厳重な、鋼鉄張りの耐火設備にでも、なっているのかも知れぬ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
寝台ベッドから取って来た白い毛布にくるまってガタガタに寒くなりながら立っていると、ヤングは大急ぎで、向家むこうの横路地の間から
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寝台ベッドから離れて——こうお松はにこやかにいったが、それは泣いているとも笑っているともつかない不思議な顔の痙攣けいれんであった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが今朝けさ、宿直室の寝台ベッドの上で、クロロホルム臭い手巾ハンケチを顔へ当てられて、死んだまぐろのようになって眠りこけて居たんだ。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
寝台ベッドの裾の方の壁に、大きい自分の影法師を映しながら、伸子は部屋に入った。が、夫の様子を見ると、言葉がふさがれた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
瑠璃子も、寝台ベッドの中で、暫らくの間は、眠り悩んでいたようだったが、その裡に、おだやかないびきの声が聞え初めた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たしかに塔の上からである。桂子は慄然ぞっとしながら寝台ベッドをとび下りると、父の部屋へ馳せつけて力任せにドアを叩いた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを聞くと私の胸は躍った。喜びと期待に満ちて寝台ベッドり、ぐっすり寝込んで五時に目をさまして見ると空はあつらえ向きに、からっと晴れ渡っている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
ムシュー・ドファルジュは、この食糧と、彼の持っているランプとを、靴造りの腰掛台ベンチ(その屋根裏部屋にはそれ以外に藁蒲団の寝台ベッドが一つあるだけだった)
この室のドアを開くまでは、私は老婦人ひとりが、静かに寝台ベッドの上にねむっていることと思っていました。ところがどうでしょう。いま扉を押して見ておどろきました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そばには、やはり三十を越えたばかりと見える洋装の男が、石像のごとく佇立ちょりつして、憐れむように寝台ベッドの男を見つめている。彼もまた極めて立派な容貌の所有者である。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
アンはサミイのために寝台ベッドの支度をしていたが、三人はそれから茶を飲んで雑談を交わした。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こう言いながら、彼は、私が痛くてもう少しで大声を出しかけたほど私の肩をぎゅっと掴んで、脚を重量品のように重そうに動かしながら、ようようのことで寝台ベッドから起き上った。
彼はその下段の方に数個の行李こうりを納め、上段には蒲団をのせることにしていましたが、一々そこから蒲団を取出して、部屋の真中へ敷く代りに、始終棚の上に寝台ベッドの様に蒲団を重ねて置いて
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
艇長は士官室の中であわただしい急死を遂げられました。寝台ベッドの上から、左手が妙にグッタリとした形で垂れ下がっているので、さわってみると、すでに脈は尽き、氷のように冷たくなっていたのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
寝台ベッドを取り囲んで細君も看護婦も不安げに彼の顔をのぞきこんだ。
肉腫 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「ま、貴方は!」と叫ぶといきなり、つと身を翻して寝台ベッドの枕許へ走り寄ると、そこに据えられたスタンドの小卓の上へ手を差し伸べた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は黄色い吸呑すいのみを抱えながらキョロキョロとそこいらを見まわした。このへやには寝台ベッドが一つしかないのを知っていながら……。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
顔見知りの雇人女中達の目礼するのに答えて、二階の寝室に通ると、私を寝台ベッドの上へ押し上げるようにした看護婦と花枝は
寝台ベッドの蒲団は、内に横わっている人間の体なりにもり上っている。何の変りもない。——伸子は、何のためにそんな不安に掴まれたか、おかしくなった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
父の壮太郎はよく眠っていて起きそうもなかったので、敦夫は旅の疲れもあり、寂しがる妹と一緒の部屋で早くから寝台ベッドへ入った。寝苦しいひとばんだった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
美奈子と瑠璃子とが、同じ寝室に入つて、寝台ベッドの中に横はつたのは、もう十一時を廻つた頃だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
寝台ベッドに輾転反側して、眠りが来るようにしきりに祈りながら、一生懸命に眼をつぶっていると、そのうち、何処か高いところからでも墜落するように、急に眠り出したものとみえる。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
つまりラジウムを挿入そうにゅうされて、ほんのすこしだけれど、じっと寝かされるのを待っていたのだ。医師と看護婦とは、私が寝台ベッドの上にくぎづけになっているだろうことを信じて疑わなかった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝台ベッドの下の丸っこい死骸を睨めつけて——また、不意に耳をそばだてていった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう押入れの寝台ベッドには興味がなくなって、所在なさに、そこの壁や、寝ながら手の届く天井板に、落書きなどしていましたが、ふと気がつくと、丁度頭の上の一枚の天井板が、釘を打ち忘れたのか
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言って、隣の寝台ベッドに寝ている俊夫君を起こすと
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかも、そうした疑問を抱きながらも、寝台ベッド羽根蒲団クッションは、相変らずふくふくとして柔らかく、まどかな夢を結ぶには、好適この上もありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
寝台ベッドの前に廻った夫人は、その華奢な手を少年の蒼白い額に当てましたが、恐ろしい死の冷たさに脅えて、ゾッとした様子で引込めてしまいました。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)