寒空さむぞら)” の例文
冬のオステルリッキなるダノイアもかの寒空さむぞらの下なるタナイもこの處の如く厚き覆面衣かほおひをその流れの上につくれることあらじ 二五—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「こんな寒空さむぞらに、それにものもないのでは、きっとんでしまうだろう。」と、三びきの小犬こいぬのことをおもいながら、みちいそいだのです。
犬と古洋傘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(翌年七銭に値上。)氷あずきなど東京中探したってもうどこにもありはしない寒空さむぞらに、浅草では依然として氷をかけた愛玉只を売っているのだ。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
寒空さむぞらに月が凍りつくように光っている夜だったよ。私を山へ連れて登ってくれというのだ。私は比叡山ひえいざん女人禁制にょにんきんぜいで女は連れて登るわけに行かないと断わったのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「ええ。かしこまりました。だが、この寒空さむぞらにこの土地で梨の実を手に入れる事は出来ません。しかし、わたくしは今梨の実の沢山になっているところを知っています。それは」
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
増上寺ぞうじょうじ前に来てから車をやとった。満月に近い月がもうだいぶ寒空さむぞら高くこうこうとかかっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そんな時の私達は、きっと、えりをかき合わせ、眉を寄せて寒空さむぞらを見上げているに相違ありません。庭の捨て石やかがいしのもとに植えられた福寿草は、よく自然の趣を見せてくれます。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
神様や仏様は人の苦しむのを見て悦びなさるはずはないが、人が物を頼むにも無理力むりぢからを入れて頼んだからってくものではない、お前も同じ人に生れていながら、この寒空さむぞら垢離こりなど取って
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この寒空さむぞらに外へ出してよく病気に成らない物だと思ふが、東京の様に乾風からかぜが吹かないせいもあらう。又巴里パリイの様に日当りの悪い構造の建築では室内に子供を置く事がかへつて病気を惹起ひきおこし易からう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
晴れた晩には、奥深く澄みきってる寒空さむぞらの一部に、凄いほど冴えてる星の群が見えた。月の光りが射す時には、露か霜かに濡れてる近くの屋根の瓦が、鱗のような冷たさに一枚々々光っていた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ね、祖母としよりが、孫と君の世話をして、この寒空さむぞらに水仕事だ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寒空さむぞらにい照りうつろふ黄のいらか目もあやにしてここは霊廟みたまや
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
寒空さむぞらよるに響けと、いとせめて、鳴りよそふとも
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
跫音あのとをぬすむ寒空さむぞら
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
光もうすき寒空さむぞら
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そんなわるいことをするやつは、どこのやつだろう。」と、おとこは、この寒空さむぞらてられた、かわいそうなあかぼうを、はやくさがしして、どうかしてやらなければとおもって
犬と古洋傘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寒空さむぞらよるに響けと、いとせめて、鳴りよそふとも
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
光もうすき寒空さむぞら
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まだとしもゆかないのに、そして、こんな寒空さむぞらなのに、にはよごれたうす着物きものて、どんなにさむかろうとおもいました。おみよは乞食こじきより二つ三つ年上としうえであったのです。
なくなった人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)