姦通かんつう)” の例文
自分の妻君の姦通かんつうをかぎつけた亭主のように、その晩船長は一睡もしなかった。そして、そのおかげで、ボーイも眠れなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
スデニ僕ハ、普通ナラバ姦通かんつうシテイルト認メラレテモ仕方ノナイ状態ニ二人ヲ置イタ。僕ハ今モナオ妻ヲ信ジテ疑ワナイ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これほど礼節をもわきまえている女がどうして姦通かんつうの罪を犯したのであろうと、家へ帰った後もしきりに心を労した末
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
で、先程一寸電話で、瑪瑙座の事務所へ脚本の内容に就いて問い合わせて見た。するとそれは、一人の女の姦通かんつうを取扱った一寸暴露的な作品である事が判明した。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
社に一人悪い奴がいて、社主が地方へ出張している間に社の金をつかいこむ、しておかねばならぬ仕事は手も付けずおまけに社主の妻君と姦通かんつうしたとか、しないとか。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
むしろ四囲の環境と、姦通かんつうの秘味と、またその折の巧雲のからだの条件とにこのさいは問題がある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故世の中には情死しんぢう殺人ひとごろし強盗がうとう姦通かんつう自殺じさつ放火はうくわ詐欺さぎ喧嘩けんくわ脅迫けふはく謀殺ぼうさつの騒が斷えぬのであらうか、何故また狂人きちがひ行倒ゆきだふれ乞食こじき貧乏人びんぼうにんが出來るのであらうか。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今日の小説や詩や歌のほとんどすべてが女郎買じょろうがい、淫売買、ないし野合やごう姦通かんつうの記録であるのはけっして偶然ではない。しかも我々の父兄にはこれを攻撃する権利はないのである。
そうして、残酷な世間の迫害に苦しんでいる、私たち夫妻に御同情下さい。私の同僚の一人はことさらに大きな声を出して、新聞に出ている姦通かんつう事件を、私の前で喋々ちょうちょうして聞かせました。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人殺しや姦通かんつうなどを出すとしても、それらはなるべく少なくそして簡単にしたい。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
出抜だしぬいて家を出るばかりか、何の便たよりも為んところを見れば、始から富山と出会ふ手筈てはずになつてゐたのだ。あるひは一所に来たのか知れはしない。宮さん、お前は奸婦かんぷだよ。姦通かんつうしたも同じだよ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
堅い口留をして、ふとそれ等の事をお鈴にもらしたお島は、それを又お鈴から聞いて、宛然さながら姦通かんつう手証てしょうでも押えたように騒ぎたてる、隠居の病的な苛責かしゃくからおゆうを庇護かばうことに骨がおれた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
始めし所或日にはか雨に逢堂前にて晴間はれままちし中無量庵むりやうあん雨舍あまやどり駈込かけこみ不※ふと種々しゆ/″\の物語より親子の名乘なのりをなしお里は今さら夢のさめたる如く後悔こうくわいして惣内と姦通かんつうせし事の始より九助をつみおとし夫よりかげ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うしろ手にくくりあげると、細引を持ち出すのを、巡査おまわりしかりましたが、叱られるとなおたけり立って、たちまち、裁判所、村役場、派出所も村会も一所にして、姦通かんつうの告訴をすると、のぼせ上がるので
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
結局、その娘も男も姦通かんつうの罪に処せられることになった。
姦通かんつうなんてできるものかね?」
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それで、わしとの手は一時切れていたが、それからもとつぐ先で、幾たびも姦通かんつう騒ぎを起した。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以来私はあきらかに三浦の幽鬱な容子ようすかくしている秘密のにおいを感じ出しました。勿論その秘密の匀が、すぐむべき姦通かんつうの二字を私の心にきつけたのは、御断おことわりするまでもありますまい。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
西洋の貴族の間では姦通かんつうは珍しくないという。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とむらひ終しとかやこゝ不思議ふしぎなるは先年罪科に所せられたる上臺昌次郎が未だ梅と姦通かんつうせざる以前村中にふかちぎりし娘有りし所遂に姙娠にんしんなしたる儘親元へも掛合かけあひ出生しゆつしやうの子は男女にかゝはらず昌次郎方へ引取約束やくそくなりしが娘は程なく男子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
モデル自身は、実際、僕の提供する材料のやうな事をしてはゐないんだし、僕の友だちの小説家も、それが姦通かんつうとか、竊盗せつとうとか、シリアスな事になればなる程、徳義上、モデルの名は出さないからね。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)