夏蜜柑なつみかん)” の例文
「はあ、私もお相手を致しますから、一盃いつぱい召上りましよ。氷を取りに遣りまして——夏蜜柑なつみかんでもきませう——林檎りんごも御座いますよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「どうだこんなに大きい。内紫うちむらさきというそうだ。昨日きのう一つやってみたところ、なるほど皮の下は紫で美しい。味も夏蜜柑なつみかんの比でないよ。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かみづつみの鹽煎餅しほせんべいと、夏蜜柑なつみかんつて、立寄たちよつて、ことばつうぜずなぐさめたひとがある。わたしは、ひとのあはれと、ひとなさけなみだぐんだ——いまかるゝ。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
余は夏蜜柑なつみかんの皮をいて、一房ひとふさごとに裂いてはみ、裂いては噛んで、あてどもなくさまようていると、いつのにやら幅一間ぐらいの小路しょうじに出た。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからしばらくして、今度は、夏蜜柑なつみかんを買って来いと言い出した。三造の買ってきた夏蜜柑はうまくなかった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「お茶を持ってまいりませんで」と女中は風呂敷ふろしき解きて夏蜜柑なつみかん、袋入りの乾菓子ひがし、折り詰めの巻鮓まきずしなど取り出す。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
笹村が、書斎で本など読んでいると、甥と二人で、茶の間で夏蜜柑なつみかんなどいていることもあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちなみに右田村氏は、かつて日向ひゅうがの国〔宮崎県〕において一の新蜜柑しんみかんを発見し、これを小夏蜜柑こなつみかんと名づけて世に出した。すなわち小形の夏蜜柑なつみかんの意で、そのとおり夏蜜柑なつみかんよりは小形である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その内でも酸味の多いものは最もきにくくて余計にくうが、これは熱のある故でもあろう。夏蜜柑なつみかんなどはあまり酸味が多いので普通の人は食わぬけれど、熱のある時には非常に旨く感じる。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
来太が覚めると、五人は夏蜜柑なつみかんをむいて「はいお眼覚めざです」と差し出した、来太はまずその一房を取っててのひらへ果汁を絞り、両手で受けて顔をごしごし擦ると、紙巻を取り出してうまそうに一服した。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夏蜜柑なつみかんの冷やしたのが、丸い金色の切り口を上へ向けて、切子硝子きりこガラス果物盃カップの中にうずまっている。一さじほどの荔枝れいしのジャム。チューブからしぼりだした白い油絵具のような、もったりとした生牛脂クレエムフレェシュ
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
内田氏はかう言つて夏蜜柑なつみかんのやうな円い頭を下げた。
顔がちいさく、夏蜜柑なつみかん位の大きさに見えた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そうして弁当には偉大なる握り飯を一個、夏蜜柑なつみかんのように腰へぶら下げて来て、それを食うんだって云うじゃないか。食うと云うよりむしろ食いつくんだね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あさまだきは、旅館りよくわん中庭なかには其處そこ此處こゝを、「おほきな夏蜜柑なつみかんはんせい。」……親仁おやぢ呼聲よびごゑながらいた。はたらひと賣聲うりごゑを、打興うちきようずるは失禮しつれいだが、旅人たびびとみゝにはうたである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
紙にくるんだ夏蜜柑なつみかんにバナナを、女中が受け取ると、やがて三人で山荘の方へ歩き出した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この色がいいと云って、夏蜜柑なつみかんなどを品評する事もある。けれども、かつてぜにを出して水菓子を買った事がない。ただでは無論食わない。色ばかりめている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子規はセル、余はフランネルの制服を着て得意に人通りの多い所を歩行あるいた事を記憶している。その時子規はどこからか夏蜜柑なつみかんを買うて来て、これを一つ食えと云って余に渡した。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
塀の内には夏蜜柑なつみかんのような深緑の葉がかわらを隠すほど茂っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)