唾液つば)” の例文
「何言ふてるんや、大阪で講釋聽いた眞似やないか。皆な眉毛に唾液つば附けや。」と仙太郎は指で頻りに眉毛へ唾液を塗つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そう云う令嬢の眼付を見ると、どうやら父親の無罪を確信しているらしい態度ようすである。吾輩はグッと一つ唾液つばみ込んだ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二本の指先で私の右の両瞼を上下にきあけて、半巾ハンカチの先を唾液つばで濡らし/\、幾度となくこするやうに拭き取つた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
さらつぎはしくちまで悠長いうちやう運動うんどう待遠まちどほ口腔こうかう粘膜ねんまくからは自然しぜんうすみづのやうな唾液つばいてるのをおさへることが出來できないほどであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして佐柄木はまた笑うのであったが、尾田は溜まった唾液つばを呑み込むばかりだった。義眼は二枚貝の片方と同じ恰好かっこうで、丸まった表面に眼の模様がはいっていた。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
朝又もちあぶりて食し、荊棘いばらひらきて山背をのぼる、昨日来もちのみをきつし未だ一滴の水だもざるを以て、一行かつする事実にはなはだし、梅干をふくむと雖も唾液つばつゐに出できたらず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
日吉は、口にいっぱい唾液つばをためながら、猫の飯と猫に見恍みとれていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し非常な能弁家で、彼の舌の先から唾液つばを容赦なく我輩の顔面かおに吹きかけて話し立てる時などは滔々滾々とうとうこんこんとして惜い時間を遠慮なく人に潰させてごうも気の毒だと思わぬ位の善人かつ雄弁家である。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
新藤は、歩きながら、ぺっぺっと唾液つばを吐いた。
学校騒動 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
唾液つばみ込み嚥み込み相手の顔を白眼にらみ付けたが、その瞬間に……ヤアーッ……と叫んで天井に飛び上りたくなった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「市人が面桶の一升飯を喰てよるのは、思ひ出したゞけでも、可味さうで、口に唾液つばが溜るわい。」と言つてゐた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
若林博士は、そうした私の態度を見下しつつ、二度ばかりゴクリゴクリと音を立てて、唾液つばを呑み込んだようであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……お時さんのお父つあんもな、あんまり……旦那の前で言ひ憎いが、……其の何んや、年齡としが違ふもんやよつて、土壇場になつて考へはつたんやけんどなア、吐いた唾液つば呑み込めんちふことがある。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それを見ると福太郎も真似をするかのように唾液つばを飲み込みかけたが、下顎が石のようにこわばっていて、舌の尖端さきを動かすことすら出来なかった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、旦那は反齒そつぱの口から唾液つばを飛ばして喋舌しやべつた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
健策は愕然がくぜんとなった。何事か思い当ったらしく唾液つばみ込み嚥み込みした。しかし黒木は構わずに話を続けた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余りの気味悪さと不思議さに息苦しくなった胸を押えて、唾液つばを呑込み呑込みしているばかりであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゴックリと冷たい唾液つばを呑み込むと、その刹那せつなに彼女のすべてが電光のように私の頭の中へ閃めき込んだので、私は今一度ギョッとさせられない訳に行かなかった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
感情に堪えられなくなったらしくグッと唾液つばを呑んで、足元の無残な血だらけの顔を力強くゆびさした。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と今度はドクトルがアベコベにビックリさせられたらしくグッと唾液つばを嚥み込んで眼を丸くした。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
代りに唾液つばにて噛みたる紙玉を詰め置き、さて、和尚を揺起して、かく/\の人、六部の姿して此寺に来ませしと、世間の噂、取り交ぜて告げ知らせしに和尚、打喜ぶ事一方ひとかたならず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてプーッと吹き散る唾液つばの霧と一緒に、福太郎の顔の真正面から吹き付けた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
他人の恋人を冒涜ぼうとくした事になるではないか……といったような不安と恐怖に、次から次に襲われながら、くり返しくり返し唾液つばみ込んで、両手をシッカリと握り締めているうちにも
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
忌々いまいましそうにペッペッと唾液つばを吐きながら、パンをじって水を飲んだ。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唇をシッカリつまんでろ。唾液つばでも吐きやがるときたないからな……ちょっとこの電燈を持っててくれ。動かすんじゃねえぞ。反射鏡を使うんだから……ウム。何も無いと……耳の穴はドウダ。ウム。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と船長が笑いかけて煙草たばこせた。船橋ブリッジから高らかに唾液つばを吐いた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と健策はいよいよ不安らしくグッと唾液つばみ込んだ。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頬を青白く緊張さしてゴックリと唾液つばみ込んだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二三度唾液つばを呑み込んでから辛うじて
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……ゴックリと唾液つばを呑んだ。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)