唐茄子とうなす)” の例文
「こいつ! 案外、話せん男だ、俺はちと買いかぶったかな。——じゃすすめない、しゃくをしてくれ。君はその唐茄子とうなすでも、食っておれ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋のたもとにある古風な銭湯の暖簾のれんや、その隣の八百屋やおやの店先に並んでいる唐茄子とうなすなどが、若い時の健三によく広重ひろしげの風景画を聯想れんそうさせた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日陰の唐茄子とうなすしなびているごとく、十分に大気に当り、十分に太陽の光線を浴びぬ奴は心身共に柔弱になる。東京の電車に乗ってもそうだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「ねえ旦那。頭に傷がつくかも知れないね。なにぶん頭というものは、唐茄子とうなすぐらいでこぼこのものでがすよ。ヘッヘッヘ」
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
空には月が出てみちぶちには蛍が飛んでいた。其処に唐茄子とうなすを軒にわした家があって、栗丸太の枝折門しおりもんの口には七夕たなばたの短冊竹をたててあった。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わしみたいな唐茄子とうなすに、そんなきれいな妹があってたまるもんか。が、まあ、そこは何とかつくろって妹ということに口を合わせよう。はははは。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この出来損いの唐茄子とうなす野郎などと呼び、当の旦那の顔を引掻きちらし、器物を破壊する底の狼藉ろうぜきなる振舞いに及んだ。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お前のような唐茄子とうなす頭を二つや三つ斬ったところで、なにも切腹するにゃ及ぶめえ。」と、中間らは笑った。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そもそも席亭というものはお客さま次第、お客さまさえよろこんでくだされば南瓜かぼちゃ唐茄子とうなすが南京だろうとすぐにオイソレと門を開いて入れてくれるものだ。こう答案がでてきたのです。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あねさま唐茄子とうなすほうかふり、吉原よしはらかふりをするもり、且那だんなさまあさよりお留守るすにて、お指圖さしづたまおくさまのふうれば、小褄こづまかた友仙ゆふぜん長襦袢ながじゆばんしたながく、あか鼻緒はなを麻裏あさうらめして、あれよ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そもそも自分のもとは田舎士族で、少年のとき如何いかなる生活して居たかとえば、麦飯をくら唐茄子とうなすの味噌汁をすすり、衣服は手織ており木綿のツンツルテンを着て、フラネルなんぞ目に見たこともない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
木の枝にかけわたした竹ざおつるがまきついて、唐茄子とうなすが二ツなっていた。
「ジョ、冗談でしょう。糸瓜が物を言や、唐茄子とうなす浄瑠璃じょうるりを語る」
君も覚えているかも知れんが僕等の五六歳の時までは女の子を唐茄子とうなすのようにかごへ入れて天秤棒てんびんぼうかついで売ってあるいたもんだ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いきなり弥六の胸ぐらへつかみかかり、「この大嘘つき」「ろくでなし」「恥知らずのぺてん師」「おっちょこちょい」「唐茄子とうなす野郎」など、すさまじい勢いでののしりたてた。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
畑には西瓜すいか唐茄子とうなすつるわせて転がっている。そのなかで甕から首を出して鼻唄を歌っていると、まるで狐に化かされたような形であるが、それも陣中の一興として、その愉快は今でも忘れない。
風呂を買うまで (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ジヨ、冗談でせう。糸瓜が物を言や、唐茄子とうなす淨瑠璃じやうるりを語る」
唐茄子とうなす
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唐茄子とうなすのうらなり君が来ていない。おれとうらなり君とはどう云う宿世すくせの因縁かしらないが、この人の顔を見て以来どうしても忘れられない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
畑には西瓜すいか唐茄子とうなすが蔓を這わせて転がっている。そのなかで甕から首を出して鼻唄を歌っていると、まるで狐に化かされたような形であるが、それも陣中の一興いっきょうとして、その愉快は今でも忘れない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅井は百姓ひゃくしょうだから、百姓になるとあんな顔になるかと清に聞いてみたら、そうじゃありません、あの人はうらなりの唐茄子とうなすばかり食べるから、蒼くふくれるんですと教えてくれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どっちでも好いから取っとくんなさいなと女の子を両手で持って唐茄子とうなすか何ぞのようにおやじの鼻の先へ出すと、おやじはぽんぽんと頭をたたいて見て、ははあかなりな音だと云った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはちょっと見るとまるで菜種の花と同じおもむきそなえた目新らしいものであった。僕は車の上で、このちらちらする色は何だろうと考え抜いた揚句あげく、突然唐茄子とうなすだと気がついたのでひとりおかしがった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)