きっ)” の例文
が、主従しゅうじゅうともに一驚いっきょうきっしたのは、其の首のない胴躯どうむくろが、一煽ひとあおり鞍にあおるとひとしく、青牛せいぎゅうあしはやく成つてさっ駈出かけだした事である。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
叔父おじにさえあさましき難題なんだい云いかけらるゝ世の中に赤の他人でこれほどのなさけ、胸にこたえてぞっとする程うれし悲しく、せ返りながら、きっと思いかえして
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
パノラマ国の旅人は、様々の奇怪な景色の後で、この思いももうけぬ眺望に、又しても一驚をきっしなければなりません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それをのぞき込もうとすると、墓と墓との間の丈なす尾花おばな苅萱かるかやの間から、一人の女性が現われて、その覆面の中から、凄い目をして、きっと兵馬をにらみつけて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここまで黙って聞いていた平次は、ようやく謎を解く鍵を掴んだように、きっとした顔を上げました。
頃刻しばらくして夫帰り、午飯をきっした後、妻が夫を悦ばしょうと自室に入り見るに銀なし。どこへ持って行ったかと問うに夫は何の事か分らず、銀を取った覚えなしという。
その身支度を見ていると、いつのまに持って来てあったのか、黒の男小袖に薄木綿の膝行袴たっつけを穿き、同じ黒の頭巾を眉深まぶかにかぶって大小を差して行く様子ですから、先生も一驚をきっして
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻のたかい、眼のあおい、そして髪の毛が亜麻色をした、我々と何ら異なったところのない欧州人であったが、その服装の変っていることには、まったく一驚をきっせずにはいられなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
小次郎法師は、別に心にも留めなかったが、不意の笑声に一驚をきっして、和郎の顔と、折敷の団子を見くらべた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、其処に如何にも巧妙なトリックのろうせられて居ることを発見して、一驚いっきょうきっしたのである。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お雪はきっと正面を切るのです。十三夜の良い月が、中天に近くなった頃でもあり、血が見えなくたって——と言った、反抗的な色がこの小娘の顔にありありと浮かぶのでした。
室内は寂然ひっそりした。彼の言は、明晰めいせきに、口きっしつつも流暢りゅうちょう沈着であった。この独白に対して、汽車のとどろきは、一種のオオケストラを聞くがごときものであった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして何気なくその中味を取り出して見た時、私達は更に一驚をきっしないではいられませんでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘はきっと身構えました。が、この醜い魚は最早起き上る力も尽きた様子です。
全く鏡を見なすった時に、はッと我に返って、もう悪所には来まいという、きっとした心になったのじゃげな。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万七は、植幸の親爺の困惑し切った顔をきっと見据えました。
まさしくその人と思うのが、近々ちかぢかと顔を会わせながら、すっと外らして窓から雨の空をた、取っても附けない、赤の他人らしい処置ぶりに、一驚をきっしたのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お鶴は思わずきっとなりました。
いや、恐縮ですが、また、さほど大した御容体でもなかったと見えまして、貴下が、こっちへ御入院という事は、まったく、今朝けさはじめて聞いて一驚をきっしました。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お鶴は思わずきっとなりました。
かたわらにならんだのとそっくりなのに、聾桟敷一驚をきっする処に、一度姿を消した舞妓が一人、小走りに駆け戻るのと、花道の、七三とかいうあたりで、ひったり出会う。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次はきっと見上げました。
従って——こおり多津吉も、これに不意を打たれたのだと、さぞ一驚をきっしたであろうと思う。
博士はきっとなりました。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
仏蘭西フランスからと、伊太利イタリイ、それから白耳義ベルギイ西班牙スペインから、公私おのおのその持ぬしから、おなじ事を求めて、一度ずつ瓜を返したのには、小山夏吉も舌をまいて一驚をきっしたそうである。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欣弥 (顔を上げながら、万感胸に交々こもごも、口きっし、もの云うあたわず。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞くものは一驚いっきょうきっした。菜の花に見た蛇のそれより。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白糸はまず二服をきっして、三服目を馭者に
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は口きっしつつ目瞬またたきした。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葛木はきっと見る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)