其上そのうえ)” の例文
其晩そのばん宗助そうすけうらからおほきな芭蕉ばせうを二まいつてて、それを座敷ざしきえんいて、其上そのうえ御米およねならんですゞみながら、小六ころくことはなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……どれ、(樹の蔭にひとむら生茂おいしげりたるすすきの中より、組立くみたてに交叉こうさしたる三脚の竹を取出とりいだしてゑ、次に、其上そのうえまるき板を置き、卓子テエブルの如くす。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は最早もはや、国家の戸籍面に席もなく、広い世界にただ一人身寄りもなければ友達もなく、其上そのうえ名前さえ持たぬ所の、一個のストレンジャーなのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
息苦しくしてって、お前は来年の一月一じつから二月一じつまでの間に土の下にうめられるのだといって聞かせて、其上そのうえでどんな哲学を説き出すか、聞いてりたい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
裏付股引うらつきももひきに足を包みて頭巾ずきん深々とかつぎ、しかも下には帽子かぶり、二重とんびの扣釼ぼたん惣掛そうがけになし其上そのうえ首筋胴の周囲まわり手拭てぬぐいにてゆるがぬよう縛り、鹿しかの皮のはかま脚半きゃはん油断なく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人民じんみんからはさまざまの祈願きがんるであろうが、その正邪せいじゃ善悪ぜんあくべつとして、土地とち守護神しゅごじんとなったうえは一おう丁寧ていねい祈願きがん全部ぜんぶいてやらねばならぬ。取捨しゅしゃ其上そのうえことである。
倫敦ロンドンの博物館はいづれも立派な建築で明りの取方とりかた申分まをしぶんなく、其上そのうえ配列が善く整頓して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
叩き起すことも有り其上そのうえ時々は一週間ほど帰り来らぬことも珍しからず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其上そのうえに砂糖でも混ぜて置けば、万々失敗する気遣いはありません、誰にしても、まさか天井から毒薬が降って来ようなどとは想像もしないでしょうから、遠藤が、咄嗟の場合
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
折角せっかく逢いは逢いながら、二人はろくろく話をかわすことも出来なかった。庄太郎は相手の目に疑惑の色を読むと、其上そのうえじっとしてはいられなかった。座敷に通ったかと思うともういとまを告げていた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中は天井もなく、蜘蛛くもの巣だらけの太いはりななめに低く這っている。とても立っては歩けない。それに床も、鋸目のこぎりめの立った貫板ぬきいたが打ちつけてあるばかりで、其上そのうえに鼠のふんとほこりがうず高くたまっている。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)