係蹄わな)” の例文
それからじゃ、彼の第二の敵に係蹄わなをかけて、彼は太陽の光りの所に出て来て田舎の牧師の最も叮嚀さを以て吾々一同に挨拶をしたのじゃ
その奸黠かんかつなる工事は、もとよりいかなる係蹄わなをも許す戦争ではとがむべきことではないが、いかにも巧みになされていたので
野にあるうちはどれだけ大食するか知れぬ至極の難物だが、このものの奇質は貯蓄のため食物を盗みまた自分の害になる係蹄わなぬすみ隠すのみか
忽ち水に住む霊怪の陰険な係蹄わなに掛かつたかと思ふやうに、ドルフは両脚の自由をさまたげられた。溺死し掛かつてゐる男が両脚に抱き附いたのである。
どういふ秘密な企みと、狡猾な係蹄わながかくしてあるか、見当もつかないのである。憎いのは澄江の心だと他巳吉は思つた。そして狡猾な企みである。
恋愛は、理智の埒を打ち破つて奔り易いものですが、それは私たち若い者のみが有つ尊い熱情であると同時に底知れない奈落へ導く係蹄わなをも秘めてゐます。
〔婦人手紙範例文〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
わしも斯う係蹄わなに掛るとは知らず、真実私に心があるのかと、男の己惚うぬぼれ手出てだをしたが、お瀧でがんすか、其の時分には眉毛を附けて島田だったが、へえー
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私のこの古びた獨身者の頸を神聖なる係蹄わなにかけ、結婚といふ神聖な國に這入るといふ事——手つとり早く云へば、イングラム孃を私がめとるといふ事を。
実験室ばかりで仕事をしている学者達はめったに引っかかる危険のないようなこうした種類の係蹄わなが時々「天然」の研究者の行手に待伏せしているのである。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
子よ、汝が聞きたる事の解説ときあかしは即ち是なり、是ぞ多からぬ年の後方うしろにかくるゝ係蹄わななる 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まあ、いわば係蹄わなのようなものです。わたしは冗談をいってるんじゃありません。じっさい、今でも結婚は、まるで係蹄にでも掛けるようにして成立するんですからね。
人生は到底逃れられない一種の係蹄わなであると思ふ外はなかつた。動かすことも逃れることも出來ない冷嚴なる盲目の力、運命の前に立つて、人の取り得る道は唯一つある。
生みの力 (旧字旧仮名) / 片上伸(著)
潔くここを引き揚げたい気持もしながら、やっぱり思い切りが悪く、後ろ髪を引かれるのであった。一度かかった係蹄わなから脱けるのは、彼にとってはとても困難であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを見て私は最早もう必定きっとそうだと決定きめて御隠居様に先ず申上げてみようかと思いましたが、一つ係蹄わなをかけて此方こっちめした上と考がえましたから今日ってたので御座いますよ
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もう何を言う必要がある、彼女はカアルの腕の中にいた、彼女の心臓が彼の心臓にぴったり当って動悸していた、ちょうど係蹄わなに陥ちた狼のようにカアルの体内に躍っている心臓に。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
掻いて、計画齟齬そごさせ後手へ後手へと廻す、小面憎いが好敵手でもある彼奴きゃつを、今度こそはどうやら取り詰めたらしいぞ。それもさ自分のかけた係蹄わなへ、自分の方から引っかかってな
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むかしから芸術の神様はやきもち焼で、二心ふたごころを持つたものは屹度たゝられると言ひ伝へてゐる。だが、世の中には、芸術家をたぶらかさうと、態々わざ/\係蹄わなをこしらへて待つてゐるのも少くない。
ひそかにたすけ得させべくばたすけも得さすべきを、われも汝をかくすべきえにし持つ人間なればぞ、哀れなるものよ、むしろ汝は夜ごとの餌に迷ふよりは、かくてこのままこの係蹄わなに終われ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
話上手の片山君から創業時代の面白い話を沢山に聞く。㓐別りくんべつは古来鹿の集る所で、アイヌ等が鹿を捕るに、係蹄わなにかゝった瘠せたのは追放し、肥大なやつばかり撰取りにして居たそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
果して私の計画は成功しました。あなたはみごとに私の係蹄わなにかかって不具かたわものであるということを白状なさいました。そうして私たちは、あなたに欺かれたことをはっきり知ることが出来ました。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……思いも付かない、おそろしい西洋人の係蹄わな……???……。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とたんに係蹄わなに引かかる 南無三 とんぼがへりを二つ三つ
(旧字旧仮名) / 三好達治(著)
係蹄わなに掛かった狐のように
恐ろしい係蹄わなだ。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
テナルディエの気持ちは、ちょうどおおかみ係蹄わなにかかってその鉄の歯で押さえつけられた時のようなものだった。
さるがやって来て片手を穴に突っ込んで米を握るとこぶしが穴につかえて抜けなくなる。逃げれば逃げられる係蹄わなに自分で一生懸命につかまって捕われるのを待つのである。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
銀子は自身の愚かさ弱さから、このごろだんだんディレムマの深い係蹄わなに締めつけられて来たことに気がつき、やはり私は馬鹿な女なのかしらと、自分を頼りなく思っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
係蹄わなにかけて豚とりに来た犬を捕ったら、其れは黒い犬だったそうで、さしあたり白の冤はれたようなものゝ、要するに白の上にあしき運命の臨んで居ることは、彼の主人の心に暗いかげを作った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
親父も一人や二人討って掛ろうとも無慚むざんに殺されることは有りませんが、何うかいう係蹄わなに掛って、左様な横死をいたしたので、誠に残念なことでございますから、私は直様すぐさま仇討に出立致し
『戦国策』に人あり係蹄わなを置きて虎を得たるに、虎怒りてあしのうらって去る、虎の情その蹯を愛せざるにあらざれど、環寸わずかの蹯を以て七尺の躯を害せざる者は権なりとあって虎の決断をめ居る。
またある時は、「思うことなくて暮らさばや、わが世の昨日はさちなきにもあらず、さちありしにもあらず」と書いた。またある日の日記には、「昨夜、一個の老鼠ろうそ係蹄わなにかかる。哀れなる者よ。 ...
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あわやまたもや葉之助は、恐ろしい係蹄わなへ落ちようとする。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どんな係蹄わなをかけたの?」とお清が心配そうにいた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
みだらなる魔の係蹄わなにしも
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それが売れない山と同じに先を越されて罐詰かんづめになっており、下手をすれば親類合議で準禁治産という手もあり、妄動もうどうして叔父たちの係蹄わなにかからないとも限らないのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ナポレオンは勝利に対する直接的知覚を失ったのであろうか。彼はもはや、暗礁を認知せず、係蹄わなを察知せず、くずれかかってる深淵の岸を弁別し得ざるに至ったのであろうか。
一緒に公園の茂みの中にわなをかけに行っても彼のかけた係蹄わなにはきっとつぐみや鶸鳥ひわが引掛かるが、自分のにはちっともかからなかった。鰻釣うなぎつりや小海老こえび釣りでも同様であった。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
以前まえかた係蹄わなをかけて置いた林の奥まで引っ張り寄せ
係蹄わなにかかった敵の捕虜とりこ