ちつと)” の例文
しつかり眼を閉ぢてゐても、ちつとも眠くならなかつた。何度も寝返りをうつては溜息ためいきをついた。そして夜はだんだんふけて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
代助は又結婚問題にはなしもどると面倒だから、時にねえさん、ちつとねがひがあつてたんだが、とすぐ切り出して仕舞つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
上人様が何と仰やつたか知らぬが妾にはさつぱり分らずちつとも面白くない話し、唐偏朴のあののつそりめに半口与るとは何いふ訳、日頃の気性にも似合はない
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ちつともかまひは致しませんけれど、さうでもない、貴方がこの先御迷惑あそばすやうな事があつてはと存じて、私それを心配致してをるくらゐなのでございます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「いや、あり得ない事だ。私の臆測は正しい筈がない。けれども。」と私共の心の中で私共に話しかけるあの祕密の聲が口を出した。「お前だつてちつと綺麗きれいぢやない。 ...
春枝夫人はるえふじんわたくし後方うしろに、愛兒あいじをしかといだきたるまゝ默然もくねんとしてことばもない、けれど流石さすが豪壯がうさうなる濱島武文はまじまたけぶみつま帝國軍人松島海軍大佐ていこくぐんじんまつしまかいぐんたいさ妹君いもとぎみほどあつて、ちつと取亂とりみだしたる姿すがたのなきは
ゆきは、故郷ふるさとからわたしむかひたものを、……かへちつとしに、貴下あなたせなよりかゝつて、二階にかい部屋へやはいりしなに、——貴下あなたのお父様とうさま御覧ごらんには、……きふ貴下あなたおほきくつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無し夫にしても自分でするはちつと小面倒こめんだうの仕事なり彼奴あいつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何だい、こんな糞坊主くそぼうずが、そばにをつても、ちつとも温くなりやしないぢやねえか、と口の中でいひながら、武助さんは邪険にぐらぐらと船を揺すぶつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
成程それは、お前との約束ね、それを反古ほごにしたと云ふので、としの若いものの事だから腹も立たう、立たうけれど、お前自分の身の上もちつとは考へて見るが可いわね。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
むなしくなくなす道理だうり子供を何處どこへかたくちつとは金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此方こちら暢気のんきなものだから那様こんなこととはちつとも知らない、山田やまだまた気振けぶりにも見せなかつた、けれどもさきにも言ふごとく、中坂なかさかに社をまうけてからは、山田やまだまつた社務しやむあづからん姿であつたから
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「宮さん、何を泣くのだ。お前はちつとも泣くことは無いぢやないか。空涙!」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)