一頻ひとしき)” の例文
岩野泡鳴氏は文士や画家ゑかき片手間かたでまの生産事業じごふとしては養蜂ほどいものは無いといつて、一頻ひとしきりせつせと蜜蜂の世話を焼いてゐた。
また私のむねやはらぎの芽をゑそめたものは、一頻ひとしきり私のはらわたきざんでゐたところの苦惱くなうんだ、ある犧牲的ぎせいてきな心でした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
羽柴筑前守、前田又左衛門、福富平左衛門、佐々内蔵介さっさくらのすけ——それらの若い部将の隊伍の力づよい足なみも一頻ひとしきりつづいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美女達はその手を取ってほらあなの中へ入ったが、歓び笑う声が一頻ひとしきり聞えてきた。紇は巌の陰で合図のあるのを待っていた。と、美女の一人が出てきて
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
花車重吉を頼んで何処どこまでも討たんければならぬと云って、一頻ひとしきり私を狙って居るという事をたしかに人をもって聞いたそう云う手前が心で居たものが、此処こゝに来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
突然硝子を射抜くやうな太く真つ直な雨脚がヂヂヂヂヂイーと一頻ひとしきり窓に噛みつくのであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
妻は入院の費用にあてるため、郷里に置いてある箪笥たんすを本家で買いとってもらうことを相談した。彼がさびしく同意すると、妻は寝たままで、一頻ひとしきり彼の無能を云うのであった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
また一頻ひとしきり黙ったときがつづいたが、町にはいるには惜しいくらいの愉しさを、きゅうに言葉でそれを表わさなければならぬものが感じられた。おなじ思いは筒井の心にもあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
して又一頻ひとしきり、異ふ意味での談話が盛つた。が、それでも二時近くなると、芸者たちもぽつ/\帰つて行き、割合に近くに住居すまひのあるS君とY君とも、自動車を呼んで、帰る事になつた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
美奈子が、玄関から上って、奥の離れへ行こうとして客間の前を通ったとき、一頻ひとしきにぎやかな笑い声が、美奈子の耳をいて起った。今までは、そうした笑い声が、美奈子の心をかすりもしなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
時々空が暗くなって雲が濃くなると一頻ひとしきりずつ必ず雨を降らせる。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その年も暖冬で、地上に雪はなかったが、時時、大きな牡丹雪が、一頻ひとしきり降り続く。やがて前方に、意外にも広大なスロープを持った、蔵王山麓の風景が展けて来る。貞子はその一点を指さして言う。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
昨夜ゆうべ一頻ひとしきり雨が降っていましたが、この辺にもはげしい夕立ちがあったのでしょうか? 空が曇って、低く雲が垂れて、しかもその曇った雲の切れ目から薄日がれて、一際濃い彼方かなたの山の中腹から
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
トーマス・リイドといへば、米国では一頻ひとしきり鳴らした弁護士出の政治家で、共和党の弁士として議院で随分雄弁をふるつたものだ。
又右衛門の家の門辺には、待ちもうけていた縁者や家族たちが、藤吉郎のすがたを迎えて、一頻ひとしきり揺れる明りに華やいだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
便所はばかりの手拭ひ掛けがこと/\と、戸袋に当つて搖れるのがやむと、一頻ひとしきりひつそりと静かになつて、弱り切つた虫の音が、歯※はぐきにしみるやうに啼いてるのが耳だつて来る。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
その翌日は夕方から暴風雨になって一頻ひとしきり荒れたが十時過ぎになってぱったりんだ。秀夫は寝床ねどこの中へ入っていたが、天気が静まるとぶらりと戸外そとへ出て、往くともなしに新京橋の方へ往った。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
風にあおられた大雨が一頻ひとしき沛然はいぜんとして降り注いで来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女流声楽家三浦たまきと今は故人の千葉秀浦しうほとの関係は一頻ひとしきやかましい取沙汰とりさたになつたので、世間には今だにそれを覚えてゐる人もすくなくあるまい。
この下の谷間から石を切り出しているので、そこで働いている石切いしきり職人たちが、毎日の例によって八刻やつというと、ここへ甘い物をたべに来て、一頻ひとしきり番茶を飲みながら饒舌じょうぜつたのしむ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸妓連が一頻ひとしきり雀のやうにぺちやくつて、さつと引き揚げてくと、あとに残つた一人の相客は溜息をきながら言つた。
と、一頻ひとしきりに、堂上どうじょう間の笑いばなしになったという。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多分一頻ひとしきり噂のあつた岩野清子女史との結婚問題を気にして、それで一寸ね出したものらしい。
呟いて、一頻ひとしき咳込せきこむ。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一頻ひとしき喋舌しやべり疲れた連中れんぢゆうがどしんと一つ卓子テーブルを叩いて