一語いちご)” の例文
法学士の安田は、はじめからしまいまで一語いちごも言わずに、下田の子供らのうしろにたって、じっと不思議な死体をつめていた。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
遂に一語いちごかなかった怪青年と落付いてしゃべっていた曽我という男との間に、ほのかに感ぜられる特殊の関係、それにあの不思議な実験だ。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宗助そうすけこの一語いちごなかに、あらゆる自暴じばう自棄じきと、不平ふへい憎惡ぞうをと、亂倫らんりん悖徳はいとくと、盲斷まうだん決行けつかうとを想像さうざうして、是等これら一角いつかくれなければならないほど坂井さかゐおとうと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くるなら學校がくかうからものつくつたのでなければ、とても『ろ』の一語いちご我等われらかんずるやうなもの出來できないぞ、如何どうだろう?』と兒玉こだまいたのに二人ふたり異議いぎなく贊成さんせい
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一年のいとも貴き一語いちごなり。
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
「気をけ」の一語いちご
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何人なんびと何用なにようありてひたしといふにや親戚しんせき朋友ほういう間柄あひだがらにてさへおもてそむけるわれたいして一面いちめんしきなく一語いちごまじはりなきかも婦人ふじん所用しよようとは何事なにごとあひたしとは何故なにゆゑ人違ひとちがひとおもへばわけもなければ彼處かしこといひ此處こゝといひまはりし方角はうがく不審いぶかしさそれすらこと不思議ふしぎなるにたのみたきことありあし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二人は、マッチ箱の裏に書かれた指令文を読み終ると、わせていたひたいを離して、思わずたがいの顔を見合わせた。二人は一語いちごも発しない。余程よほど重大な指令と見える。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしやと思って、あんに心配していた彼の掛念けねんの半分は、この一語いちごで吹き晴らされたと同じ事であった。夫人はいつもほど陽気ではなかった。その代りいつもほどうわ調子ちょうしでもなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)