一聯いちれん)” の例文
この一聯いちれんの前の二句は、初心の新発意しんぼちが冬の日に町に出て托鉢たくはつをするのに、まだれないので「はち/\」の声が思い切って出ない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは彼が、所謂いわゆる自己嫌悪、肉親憎悪、人間憎悪とう一聯いちれんの特殊な感情を、多分に附与ふよされていたことを語るものであるかも知れない。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、重苦しく足蹴あしげりに出来ないものは、かえってしがない職人である彼自身の内にあった。これもやっぱり一聯いちれんの支配者なのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
『崇妻道歌』一聯いちれんがあると、彼の面目躍如たりでこの一文もいきるのだが、殘念ながら函底に見當みあたらない。
こんな二人 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
何気なくそれをひらいてみると、それは或る年上の女に与えられた一聯いちれんの恋愛詩のようなものであった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
大下組が街の顔役かおやくとか、親方とかいう一聯いちれんの徒党に対する政府の解散命令をくらってから、組の若いもんから、三下さんしたのちんぴらに至るまですべてが足を洗う様に余儀なくされた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
今迄いままで書いた一聯いちれんの文章も一望のうちに視野におさめることが出来る、そういう状態にいない限り観念を文字に変えて表わすことに難渋するということをさとらざるを得なかった。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
同金銅釈迦しゃか三尊像や、所謂百済観音くだらかんのん像や、夢殿の救世くせ観世音菩薩像、中宮寺の如意輪観音と称する半跏はんか像の如き一聯いちれんの神品は、ことごとく皆日本美の淵源としての性質を備えている。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
また新羅との政治的関係も好ましくない切迫した背景もあって注意すべき一聯いちれんの歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかれどもはなひらいて絢爛けんらんたり。昌黎しやうれいうるところ牡丹ぼたんもとむらさきいま白紅はくこうにしてふちおの/\みどりに、月界げつかい採虹さいこう玲瓏れいろうとしてかをる。はなびらごとに一聯いちれんあり。なるかないろ分明ぶんみやうにしてむらさきなり。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半襟はんえりを十枚ばかり入れたのが一函ひとはこ昆布こんぶ乾物かんぶつ類が一函、小間物こまものが一函、さまざまの乾菓子ひがしを取りまぜて一函といった工合に積み重ねた高い一聯いちれんの重ね箱に、なお、下駄げたや昆布や乾物等をも加えて
右近は、清洲城の一聯いちれんである鳴海なるみの出城を預けられている山淵左馬介義遠やまぶちさまのすけよしとおの子だ。織田諸将のうちでも、重臣の者の子である。——青木綿の陣羽織一着で、春も秋も越している彼とは、格がちがう。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは『千鳥掛集ちどりがけしゅう』の一聯いちれんであった。流人は伊豆の島では自活が本則であった故に、いつも浜ばかりあるいてひどいものを拾って食っていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そういう一聯いちれんの出来事が、銀座街を中心に継起して暫くの後、やっぱり銀座通りのRという大洋服店のショウ・ウインドウの前に、妙な男が立止っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何気なくそれをひらいてみると、それは或る年上の女に与えられた一聯いちれんの恋愛詩のようなものであった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
といふ一聯いちれんことばきざんだのを、……今に到つて忘れない。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もしもそんな宮があったらつづみを打って手向たむけるだろうくらいなところで、この一聯いちれんの句はできたのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或る日万葉集に読みふけっているうちに一聯いちれんの挽歌に出逢い、ああ此処にもこういうものがあったのかとおもいながら、なんだかじっとしていられないような気もちがし出しました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ある一聯いちれんの残酷な、血腥ちなまぐさい、異様に不可解な犯罪事件の、首尾一貫した記録であって、そこにしるされた有名な心理学者達の名前は、明かに実在のものであって、我々はそれらの名前によって
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
という一聯いちれんがあって写生かと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その詩の最後の一聯いちれんのごときは
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)