一年ひとゝせ)” の例文
あはれ新婚しんこんしきげて、一年ひとゝせふすまあたゝかならず、戰地せんちむかつて出立いでたつたをりには、しのんでかなかつたのも、嬉涙うれしなみだれたのであつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひとゝせの骨折の報酬むくいを収めるのは今である。雪の来ない内に早く。斯うして千曲川の下流に添ふ一面の平野は、宛然あだかも、戦場の光景ありさまであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
われ等は未來一年ひとゝせの間のおん身の振舞を見て、過去の我等の待遇のおん身に利ありしか利あらざりしかをためすべしといはれぬ。
一年ひとゝせあまりガエタ(こはエーネアがこの名を與へざりしさきの事なり)に近く我をかくせしチルチェと別れ去れる時 —九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もとより柔弱なる兄等二人の及ぶ処に非ず。一年ひとゝせ、御城内の武道試合に十人を抜きて、君侯の御佩刀みはかせ直江志津なほえしづの大小を拝領し、鬼三郎の名いよ/\藩内に振ひ輝きぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一年ひとゝせせきといふ隣駅りんえき親族しんぞく油屋が家に止宿ししゆくせし時、ころは十月のはじめにて雪八九尺つもりたるをりなりしが、夜半やはんにいたりて近隣きんりん諸人しよにんさけよばはりつゝ立さわこゑねふりおどろか
諺に夏はあつく冬はさむきがよいと申せばさ様にも無之や。御地土用見廻之人冷気之見廻を申候よし、因而よつて憶出候。廿五六年前一年ひとゝせ京にゐ候時、暑甚しく、重陽などことにあつし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一年ひとゝせ、代議士の總選擧に、反對派の壯士が彼れを脅かさうとした時、彼れは天滿宮から寳物の緋縅の甲胄を借りて來て、それに身を固め、大身の槍をかい込んで、壯士に應對したので
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
としのうちに、はるにけり。一年ひとゝせを、こぞとやいはむ。今年ことしとやいはむ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
の庭に盛上げた籾の小山は、実に一年ひとゝせの労働の報酬むくいなので、今その大部分を割いて高い地代を払はうとするのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一年ひとゝせ二月のはじめ主人あるじは朝より用ある所へ出行いでゆきしが、其日もすでさるの頃なれどかへりきたらず。
一年ひとゝせ未だうらわかく、日は寶瓶宮裏に髮をとゝのへ、夜はすでに南にむかひ 一—三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一年ひとゝせ夏の頃、江戸より来りたる行脚あんぎや俳人はいじんとゞめおきしに、いふやう、此国の所々にいたり見るに富家ふかにはには手をつくしたるもあれど、かきはいづれも粗略そりやくにて仮初かりそめに作りたるやうなり
一年ひとゝせむ所のざいにて魚野うをの川のほとりに住む人、井をほりしにはらゝごの腥なるをほりいだせし事ありしと、友人いうじんがかたりき。はらゝご生化せいくわするを漁師れふしのことばにはやけるともみよけるともいふ。
先年其古跡をたづねんとてしも越後にあそびし時、新道しんだう村のをさ飯塚知義いひつかともよしはなしに、一年ひとゝせ夏の頃あまこひために村の者どもをしたが米山よねやまへのぼりしに、薬師やくしへ参詣の人山こもりするために御鉢おはちといふ所に小屋二ツあり