隠密おんみつ)” の例文
旧字:隱密
「じゃが、おさわぎあるなご両所、隠密おんみつは隠密でも、呂宋兵衛るそんべえのごとき曲者くせものの手先となって、働くような卜斎ではございません——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先生。大変な騒ぎで御座ります。奥山おくやまねえさんが朝腹あさっぱらお客を引込もうとした処を隠密おんみつ見付みつかりお縄を頂戴ちょうだいいたしたので御座ります。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
社会主義者だと自称してるブールジョア階級の代表者らも、労働階級の選良中の最も知力すぐれた人々を、隠密おんみつに引きつけ併合していた。
他国の人間や隠密おんみつ這入はいり込まないための、島津藩の言語政策だという説を聞いたが、それはうそだろう。言葉とはそんなものでなかろう。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
いや、その前方まえかた、燈籠の蔭には、七兵衛でない他の者の姿も、ちらりと影を見せたことがあります。多分、例の隠密おんみつでしょう。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、突如とつじょとして、雷霆らいていのように、一喝されて、こちらは、身を隠して、隠密おんみつと事を成そうとしつつある、いわば、後暗い彼——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
隠密おんみつをやって相模さがみから紀州へ、紀州から江戸へ出てしばらく休息し、やがて又相模へ主水の妻子の隠れ家をぎ出しに行った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「控えろッ大作! これなるは余の親友、名は言われんが大奥隠密おんみつの要役を承る大切な御仁ごじんじゃ! やにわに真槍をもって突きかけなんとする? 引けい!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こざかしいあの隠密おんみつめが、いらぬ忠義だてしたため、あったら十七万石に傷がついたゆえ、討ったのじゃ。
故に私が改めて貴公に頼むは、何うか隠密おんみつになってお国表へ参って、貴公が何うか又市を取押えて呉れんか……照お前は何処迄どこまでも又市をたずねて討たんければならぬが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「江戸時代の隠密おんみつというのはどういう役なんですね」と、ある時わたしは半七老人にいた。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公の社会の下に住んでる隠密おんみつ嫌悪けんおすべき反社会の一団に対して大災害をきたすものである。
そんなところへよく逃げこんだものだが、隠密おんみつがくると(隠密とはスパイ)、父はわざと蔵の階下へ通して話をするので他の者がハラハラしたという。この裁判は勝訴になったのだそうだ。
青公卿あおくげどもが懲りようとはせずに、またも陰謀を企てているそうな。ご城代様にはお心にかけられ、この俺を隠密おんみつに仕立て上げて、ここの邸へ入り込ませたが、大変な話を聞いてしまった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで作者は、あの隠密おんみつの手のことを語りたいのである。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
仙台城下の内外の隠密おんみつが、密々のうちにいよいよ濃度を加えることほど、彼の身元が心もとないと言わなければなりません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おれなんざ、こう見えても、御城内から格別なお手当をいただいて、乱波らっぱ(敵国に潜入する第五列)もやれば、隠密おんみつもやる。しかもそのおかしらだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつからともなく民間の風聞を探索して歩く「隠密おんみつ」であるとの噂が専らとなったので、江戸の町人は鳥さしの姿を見れば必不安の思をなしたというはなしである。
巷の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
恩顧の隠密おんみつ古橋専介のむくろに並べて、善光寺辰こと辰九郎のなきがらをもいっしょに、お屋敷内の藩士たまりべやに安置しながら、香煙縷々るるとしてたなびく間に、いまし
隠密おんみつ総帥そうすいで、みずから称して地獄耳、いながらにしてなんでも知っている。八代吉宗、最高秘密の政機は、すべて入浴にゅうよくの際、このせむしの愚楽にはかって決めたものだそうだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隠密おんみつではないかな? どこぞの国の?」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにお前さん、それを取りにでも行こうものなら、待ってましたと、隠密おんみつの手で引上げられてしまうにきまっていますよ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、不遇ふぐうな心境へ水を向けて引き出し、策をさずけて、伊勢方面へ、隠密おんみつに、別行動をとらしておいたものなのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中国は長州の毛利一族、九州は薩摩さつまの島津一家、というような太閤たいこう恩顧の大々名のところへはこっそりと江戸から隠密おんみつを放って、それとなく城内の動静を探らしたくらいでしたが
本八丁堀屋根屋新道しんみち隠密おんみつまわり税所邦之助さいしょくにのすけの役宅へ呼ばれて、この花の一件をしかとおおせつかったいろは屋文次、かしこまりましたと立派にお受けして引きさがりはしたものの
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「私こそ、お詫び申さねばなりません。当時の泥を吐けば、あの折こそ、じつは全く隠密おんみつの目的で、ご領内に入り込んでいたものに相違ございませぬ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江川太郎左衛門ほどの英物が竹売りに化けて、斎藤弥九郎を引連れ、甲州へ隠密おんみつに入り込んだのもそのためであったが、ついに得るところなくして終った。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、わしが目をかけて使うていた隠密おんみつのひとりじゃ」
お庭番という、将軍家直属の隠密おんみつ総帥そうすい
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「なるほど、それはごもっともなおうたがいじゃ。いかにもこの卜斎鏃鍛冶とはほんの一時の表稼業おもてかぎょうで、まことはおさっしのとおり隠密おんみつにそういない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつの隠密おんみつで召捕られた西国浪人が、どのくらいあるか知れたもんじゃありません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青鷺あおさぎの三蔵をやって、裏切りの約束をしめし合わせてあるが、なお、念のために——と、その三蔵を頭として、一組の隠密おんみつを、瀬ぶみに向けたものだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうでなくても、その以前から七兵衛が気取けどったのは、この二人の者は隠密おんみつだ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「だまれ、さっするところそのほうは、伊那丸いなまるからはなされた隠密おんみつにちがいない、思うに、屋根の上にいて、ただいまの評定ひょうじょうをぬすみ聞きしたのであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがしを隠密おんみつと仰っしゃいますか。策士なりと仰せられますか。いやはや、近頃にない愉快な事でござる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……藤夜叉や不知哉丸の身をよう守ッてくれたのみならず、長年の隠密おんみつの働き。あらためて、礼をいうぞ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊勢方面の信雄の支城や隠密おんみつからは、おもわぬ箇所の堤を切って、濁水の奔河ほんがが向って来たように
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父御にそむいて、蜂須賀村を出奔して以後、久しく甲斐かいの武田家に身を寄せ、乱波らっぱの者(隠密おんみつ)の仲間に働いておりましたが、織田の動静を探って来いと命じられ、三年ほど前
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝との流人るにん暮らしを共にして来たなどは、小宰相にはかなしみだったにはちがいないが、しかし彼女は、隠密おんみつあくそのものを、つらい役目とも罪深いこととも思っていなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天満組てんまぐみの一部の者や、また江戸方の隠密おんみつ中に、執念しゅうねく目をつけているやからがありますとやら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「久しく、具足師の柳斎となったり、また洛内にひそんで、直義ただよし(高氏の弟)さまのため蔭の働きをしておりましたが、多年の隠密おんみつづとめも、一切、御用ずみと相なって来ましたので」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう、天満浪人だの隠密おんみつだの、蜂須賀家だのッて、そんな物騒な渦の中へは飛び込むまいぞ。そうともそうとも、早く一つエレキテルや火浣布かかんぷでも仕上げて、大金もうけをしなくっちゃ……
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この主殿助の所へ、寄手よせて隠密おんみつの者が、一通の密書をもって、忍んで来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いうまでもない、隠密おんみつじゃ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『こやツ隠密おんみつじゃっ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠密おんみつッ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)