闊達かったつ)” の例文
私はやっと生活の上で闊達かったつであるばかりでなく文学の上でも闊達ならんとしているらしいから一層慎重に勉強をすすめるつもりです。
健康にして闊達かったつな、又みやびにして姿高いものであり、それが日本美術史上の遺品の中にさまざまの形態となってあらわれている。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そういう悲哀の数々が自ずとみ出るので、たとえ、縦横に振舞い、闊達かったつに処理するようでも、人の反感を買わないのではあるまいか。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もとより泉さんは私などとは違って、確かりした闊達かったつな気性の人で、イエを知る人はこの夫婦のことを鬼に金棒と云ったけれど。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
大店おおだなの主人らしい闊達かったつさはありますが、弟の悧巧りこうさを自慢にする人の良さ以外に、この荘太郎には大した取柄とりえのないことがよく判ります。
(俺は、単純闊達かったつを愛する。ハムレットよりドン・キホーテを。ドン・キホーテよりダルタニアンを。)薄っぺらでも何でも
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
標高僅かに三百尺位の牡丹台であるが、一番高いところに登ると、四方へ闊達かったつに開けた大同江平野が一眸いちぼうのもとにあった。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
だから、あなたもわが東北文化のために大いに自由闊達かったつに、当時の思い出話を語って下さい。あなたにご迷惑のかかるような事は絶対に無いのですから。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
新子も、ひやっとした気持が、まだ胸には残っているものの、とにかく闊達かったつな若者に対する自然な気安さで、立ち上ってバーテンダーのところへ行った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かくも感嘆せしめずにはおかない所以ゆえんの一つは、その半跏思惟はんかしゆいの形相そのものであろうと説かれた浜田博士の闊達かったつな一文は私の心をいまだに充たしている。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
金五郎も、それぞれ、適当に挨拶をしたが、今度の遠足のつれの、派手で、賑やかで、闊達かったつで、色っぽくて、だらしのないことに、一驚せざるを得なかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼女の闊達かったつな話声を聞き、罪のなさそうなひとみを見れば疑念が晴れるであろうことを祈りました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
簡素なるものも豪華なるものも共に俗悪であるとすれば、俗悪を否定せんとして尚俗悪たらざるを得ぬ惨めさよりも、俗悪ならんとして俗悪である闊達かったつ自在さがむしろ取柄だ。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
奉行、目附めつけなどの警戒も元よりであろうが、秀忠将軍は若くて闊達かったつだ。よく侍側を従えて普請場ふしんばへも現れるという。そんな折、飛び道具なら瞬間で目的を果すことができよう。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前者の豪健闊達かったつに対して後者にはどこか女性的なセンチメンタリズムのにおいがある。
青磁のモンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
体格といい、顔つきといい、いかにも典型的な警察官というところがあった。「ええ、これから防空演習の件について、いささか申上げます」と、その声はまた明朗闊達かったつであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
後家さんは闊達かったつなもので、愛嬌で泊り客をなめまわし、身銭みぜにをきっておごってみたり、踊りの時などは、先へ立って世話を焼いたりするものですから、つい人心を収攬しゅうらんしてしまって
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芭蕉の書体が雄健で闊達かったつであるに反して、蕪村の文字は飄逸ひょういつで寒そうにかじかんでいる。それは「炬燵こたつの詩人」であり、「炉辺ろへんの詩人」であったところの、俳人蕪村の風貌を表象している。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そうした闊達かったつな、やまとごころの、赴くままにふるもうて居る間に、ざえ優れた族人うからびとが、彼を乗り越して行くのに気がつかなかった。姫には叔父、彼——豊成には、さしつぎの弟、仲麻呂である。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
御製は、調べ大きく高く、御慈愛に満ちて、闊達かったつ至極のものと拝誦し奉る。「大君の辺にこそ死なめ」の語のおのずからにして口を漏るるは、国民の自然のこえだということをおもわねばならぬ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すると電燈の薄暗い壁側かべぎわのベンチに坐っていた、背の高い背広の男が一人、太いとうつえを引きずりながら、のそのそ陳の側へ歩み寄った。そうして闊達かったつに鳥打帽を脱ぐと、声だけは低く挨拶あいさつをした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父は一口ひとくちにいうと、まあマン・オフ・ミーンズとでも評したらいのでしょう。比較的上品な嗜好しこうをもった田舎紳士だったのです。だから気性きしょうからいうと、闊達かったつな叔父とはよほどの懸隔けんかくがありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が自分に求めているだけの闊達かったつさ、強靭きょうじんさ、雄大さはまだわがものとしていません、まだその手前での上手うまさであり、しっかりさである。
上総国かずさのくに勝浦一万一千石の領主、植村土佐守うえむらとさのかみは、若くて闊達かったつで、猟と女と遠乗りが何より好きという殿様でした。
それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
金五郎は、そんなことをいって、闊達かったつに笑ったが、安五郎は不吉な予感で、笑うどころではなかった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あなたのように聡明そうめい闊達かったつ王者のような青年紳士に無数の美しいお友達が出来るのは当然で、自分はアテネフランセの末席から、あなたのようになりたいということをいつも考えていた。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あらゆるものを認めてそれを一たん無の価値にまで返し、其処から自由性を引き出す流通無碍りゅうつうむげなものということなのよ。それこそ素晴しく闊達かったつに其処からすべての生命が輝き出すということなの。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いかにも鎌倉らしい町や海辺の情景が、冬で人が少いため、一種独特の明るい闊達かったつさで陽子の心に映った。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
高木敬太郎と名指して訪ねると、道場の入口に現れたのは、二十歳前後の闊達かったつな青年武士で、これは妹の茂野によく似た見るから気持の良いさわやかな若者です。
闊達かったつに笑って、「勝手にさせちょけ。おれは一度死んだ人間じゃ。もう、どんなことが来たって、恐いことはない。どこまで彼奴等の無茶が通るか、こうなったら、こんくらべじゃよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一つ一つの能力の優秀ゆうしゅうさが全然目立たないほど、過不及かふきゅう無く均衡きんこうのとれた豊かさは、子路にとってまさしく初めて見る所のものであった。闊達かったつ自在、いささかの道学者しゅうも無いのに子路はおどろく。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
声は相変らず闊達かったつだが、気持ちはこまかく行亘ゆきわたって響いて来た。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大家の主人らしい闊達かったつさのうちにも、諦め兼ねた愁悶が太い眉を曇らせます。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
当代の新三郎はわけても闊達かったつで聡明で、銭形平次とはよく馬が合ったのです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
闊達かったつな主人の万兵衛は、自分のせいで家族や奉公人たちまで滅入り込ませるのは気の毒と思ったか、今年は一つ出入りの者を皆んな呼んで、存分に賑やかな花見をしようと言い出したのです。