野蛮やばん)” の例文
旧字:野蠻
俊助は近藤の隣へ腰を下しながら、こう云うハイカラな連中にまじっている大井篤夫おおいあつお野蛮やばんな姿を、滑稽に感ぜずにはいられなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとのものを横合よこあいからとるようなことが多い。実にふんがいにたえない。まだ世界は野蛮やばんからぬけない。けしからん。くそっ。ちょっ。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
此れに反して、公園の見せ物は、やゝともすると殺伐に流れ、野蛮やばんを発揮するが、其処に何とも云われない空想の世界が暗示されて居る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なぜなら、人間にんげんは、天使てんしより野蛮やばんであったからです。そして、うえに、どんなあやまちがないともかぎらないからでありました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
われわれが再び人類相食あいは野蛮やばんな戦争をしないように、そのいましめの記念塔として、あのままおいた方がいいということになったのです。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな体……こんな私……いっそなくなってしまえばいい……。小初は子供のように野蛮やばんに自分の体の一ヶ処をひねってみた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ワイマールの賓臣ひんしんで、大詩人で大政治家で、社会的地位の高いゲーテは、ベートーヴェンの野蛮やばんさに苦笑したことであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
この前にも述べたごとく野蛮やばんの社会においては腕力わんりょくある者が最強者で、最大勝利者で、人も尊敬し自己もまた得意であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本多家や、松平家や、その他の寄手に、当藩と何の遺恨いこんがあるのじゃ。憎めもせぬ人間と戦えるほどおぬし等は野蛮やばんなのか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし今の巡査はそんな野蛮やばん真似まねをしなくていいのですよ。針金一本で錠前をはずすという手は、もとは錠前破りの盗賊が考え出したことです。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かの耳をろうせんばかりのけんけんごうごう、きゃんきゃんの犬の野蛮やばんのわめき声には、殺してもなおあき足らない憤怒と憎悪を感じているのである。
ことにローバの住民はごく野蛮やばん人でただその陰部だけをおおうて居る種族である。これはチベット人ともインド人ともつかないですが、その言葉によって見るとどうやらチベットの方に近い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ぶうとって汽船がとまると、はしけが岸をはなれて、ぎ寄せて来た。船頭はぱだかに赤ふんどしをしめている。野蛮やばんな所だ。もっともこの熱さでは着物はきられまい。日が強いので水がやに光る。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また実際仲間の若者たちも彼の秘密をぎつけるには、余りに平生へいぜい素戔嗚すさのおが、恋愛とははるかに縁の遠い、野蛮やばんな生活を送り過ぎていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうか気にかけないでください。こいつはもうまるで野蛮やばんなんです。礼式れいしきも何も知らないのです。実際じっさい私はいつでもこまってるんですよ」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
我が国のほまれとして我々は親も捨て、はなはだしきは妻子をころすまでして出陣しゅつじんした例などを物語ると、今日の西洋人の耳には野蛮やばんに聞こゆるそうだが、かくのごとき例は幾たび聞いても
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
天使てんしは、人間にんげんちからではできないことも容易よういにされたのです。だから、ちいさなかわいらしい天使てんしが、野蛮やばん人間にんげんんでいる下界げかいりてみたいなどとおもったのも無理むりのないことでありました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
素戔嗚すさのおは彼の不平を聞き流してから、相手の若者たちの方を向いて、野蛮やばんな彼にも似合わない、調停の言葉を述べようとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや。いやいややや。それは実に野蛮やばんの遺風だな。この世界がまだなめくじでできていたころの遺風だ。」
もし万一信じられぬ場合は、少くとも信じてゐるらしい顔つきをよそほはねばならぬものである。けれども野蛮やばんなる菊池寛は信じもしなければ信じる真似まねもしない。
いまぼくが読みかえしてみてさえ実に意気地いくじなく野蛮やばんなような気のするところがたくさんあるのだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
……わたしは青年時代を監獄かんごくに暮した。少くとも三十度は入獄したであらう。わたしは囚人しうじんだつたこともある。度たび野蛮やばんな決闘の為に重傷をかうむつたこともある。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしはいよいよ彼女の体に野蛮やばんな力を感じ出した。のみならず彼女のわきしたや何かにあるにおいも感じ出した。その匀はちょっと黒色人種こくしょくじんしゅ皮膚ひふ臭気しゅうきに近いものだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし椎の木は野蛮やばんではない。葉の色にも枝ぶりにも何処どこか落着いた所がある。伝統と教養とにつちかはれた士人にも恥ぢないつつましさがある。かしの木はこのつつましさを知らない。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
野蛮やばんな彼は幼い時から、歌とか音楽とか云うものにはさらに興味を感じなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)