酔狂すいきょう)” の例文
旧字:醉狂
「あなたが、こういう酔狂すいきょうなものを作るものだから、こんな面倒が起るのです。退屈したお金持程厄介やっかいなものはありませんよ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あんたなんかの処へ、何人たれ酔狂すいきょうにごちそうまで持って来るものかね、ほんとにあんたは、どうかしてるよ」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
最後に、なぜ私がここにこうやって出て来て、しきりに口を動かしているかと云えば、これは酔狂すいきょう物数奇ものずきで飛出して来たと思われては少し迷惑であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ナニ乗者のりて見惚みとれたのではないかとっしゃるか……。御冗談ごじょうだんばかり、そんな酔狂すいきょうものただ一人ひとりだってございません。わたくしうま見惚みとれたのでございます……。
おろかよのう。まだ年ばえも二十歳を越えず、世に隠れない舞の手も持ちながら、何で、九ろう冠者かじゃのような、らちもない男を恋い慕うぞ。……はははは、酔狂すいきょうな女子よ」
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにを酔狂すいきょうなことを言ってるんですよ。唐人とうじんの寝ごとみたいな……じゃ、あたしゃ先に寝ますよ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あなたは私をもっと理解して下さらなければ駄目よ。私が小柴さんを引き寄せて御指導するのは酔狂すいきょうじゃありませんわ。皆あなたの為めよ。私の為めもありますけれど」
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
陸尺どもは、先生はあいかわらず酔狂すいきょうだと口々に囃しながら、部屋つづきへひきあげて行く。
……いくらあっしが酔狂すいきょうでも、若旦那わかだんならねえいえ垣根かきねまで、ってはずァありませんや。まつろう自慢じまん案内役あんないやく、こいつばかりゃ、たとえ江戸えどがどんなにひろくッても——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
のゝしるを侍はしきりにその酔狂すいきょうなだめてると、往来の人々は
「死ぬ者は勝手に死ぬとは、ようもまあ、そのようなお言葉が……なるほどわたくしはいやしい歌うたいでございますから、勝手に出まかせに歌もうたいましょうけれど、お死になさる人は決して酔狂すいきょうでお死になさるのではございません」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男の酔狂すいきょうを笑いながら、しかし、女も満更まんざら好奇心がない訳でなく、蝋燭のついた行燈を取って、男の手の上にさしつけてやるのであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お! こりゃア喧嘩渡世けんかとせいの旦那じゃアござんせんか——なん酔狂すいきょうでも、そんな妙ちきりんな服装なりをしていなさるから。いやどうも、茨右近いばらうこんさまにかかっちゃアかないませんや」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おや、何んて酔狂すいきょうな人なんだろう。あたしのような者に、頼みがあるなんて。——」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「少しは察してくれなければ困るよ。何も酔狂すいきょうで所望したんじゃないんだから」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
酔狂すいきょうと云えば双方とも酔狂である。藤尾は何とも答えなかった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「殿村君、君の酔狂すいきょうにも困るね。おかみのことはお上に任せて置き給え。小説家のにわか刑事なんかが成功する筈はないのだから」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それに、お園の名は武家社会へさえ知れ渡っているから、酔狂すいきょうに引きけた山城守だったが、伝手つてを求めて申し込んで来る若侍の多いのに、却って山城守が当惑したくらいだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたしゃ酔狂すいきょうで、おまえさんをここへとおしたんじゃないんだよ。おせんがかくれてっているという、相手あいておとこりたいばっかりに、見世みせもの手前てまえかまわず、わざわざ二かいへあげたんじゃないか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もうその時分車なんかありやしない、テクテクと、十何町の道を、行きつけの待合まちあいへ歩いた。酔狂すいきょうな男もあったものだ。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お侍さん、何ぼお困りでも、あんまり酔狂すいきょうが過ぎましょうぜ。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼が出発の時から、酔狂すいきょうな変装をしていたのも、実はこの目的のためであった。たとえ親子であっても、この暗闇の中で、変装に気づくはずはない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いたずら? フフフ、いたずらよりゃ少し気の利いたことだよ。酔狂すいきょうにこんな下らない変装なんぞするものか」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうかと云って、別荘の人々の中に、煙突の中をもぐるような酔狂すいきょうな人物がいようとは考えられぬ。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それも駄目です。そんなことを頼めば、なぜ秘密を打開けたかと、僕が叱られますよ。あなたは一人でいらっしゃい。でなければ、酔狂すいきょうな真似はおよしになった方がよいでしょう」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「アア、又君の酔狂すいきょうか。それはいいが、肝腎のあいつを逃がしてしまったじゃないか。指環よりも、あいつの方が大切だ、証拠湮滅いんめつにやって来るからは、あいつこそ犯人かも知れない」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若しや犯人は、我れと我が殺害した死人を弔う為に、横笛フリュート弔歌ちょうかかなで、野菊の花束を贈ったのではないだろうか。だが、どこの世界に、その様な酔狂すいきょうな手数をかける犯罪者があるであろう。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その文面はね「今夜十二時の時計を合図に貴殿の手許に集っている寄附金を頂戴に推参すいさんする。御用意を願う」というのです。随分酔狂すいきょうな奴もあったもので、泥坊の予告をして来たのですよ。どうです。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「フム、わしにもさっぱり訳が分らん、こんな男は見たこともない。又、わしの娘が、いくら酔狂すいきょうでも、こんなゴリラみたいな醜い奴と結婚などする訳がないじゃないか。いたずらだ。誰かのいたずらに極まっている」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
考えて見れば僕という男も酔狂すいきょうさね。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)