遭遇そうぐう)” の例文
御維新前ごいっしんまえの日本人が海水浴の功能を味わう事が出来ずに死んだごとく、今日こんにちの猫はいまだ裸体で海の中へ飛び込むべき機会に遭遇そうぐうしておらん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わたくしの職業にも同じ必要に遭遇そうぐうすることはあるのです。しかしマドモアセユのために不愉快でしょう。」
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ちょうど維新いしん前後の変動に遭遇そうぐうしているのだから、母が身売りをした新町九軒の粉川と云う家も、輿入こしいれの前に一時せきを入れていた今橋の浦門と云う養家も
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
謙さんなどもやがて社会のなかの自分について一つの困難に遭遇そうぐうせられることと存じます。学校の教師なども一つの労働として許される仕事だろうと思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
大地震だいぢしん遭遇そうぐうして最初さいしよ一分間いつぷんかん無事ぶししのたとし、また餘震よしん地割ぢわれはおそれるにらないものとのさとりがついたならば、其後そのご災害防止さいがいぼうしについて全力ぜんりよくつくすことが出來できよう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
すなわち弟子たちが伝道上の困難や不成績に遭遇そうぐうして意気沮喪そそうすることなきよう、神の国の建設は神御自身の業であることを知り、希望をもって聖言の種播きを励み続けるよう
自己の心のえどころこそ成敗をはか尺度しゃくどであって、この尺度ががらぬ以上は、いかなる失敗に遭遇そうぐうしても心にうれうることがない、これ霊丹れいたんりゅう、鉄をてんじてきんと成すものか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
万一の事に遭遇そうぐうして、われらの斬り死になすはいと易いが、殿のお体はまだまだ充分でないし、片脚のきかぬ御身おんみを以ては、とても敵地を駆け抜けることは難しい。……一体どこを
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし少くとも常子だけは半年ばかりたったのち、この誤解に安んずることの出来ぬある新事実に遭遇そうぐうした。それは北京ペキンの柳やえんじゅも黄ばんだ葉を落としはじめる十月のある薄暮はくぼである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「本船は予定したる時刻においてクイーン・メリー号に遭遇そうぐうせず、さらにその時刻の前後においても遭遇せず。ついに船影せんえいすらもみとめざりき。海上は風やや強きも難航なんこうの程度にあらず」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元禄時代に対する回顧かいこがそれである。見よ、彼らの亡国的感情が、その祖先が一度遭遇そうぐうした時代閉塞の状態に対する同感と思慕とによって、いかに遺憾いかんなくその美しさを発揮しているかを。
寄木よりき・流木の言い伝えなどは、これにくらべると遭遇そうぐうがやや多く、また若干の文献にも恵まれているが、なお我々は国内の山野が、かつて巨大の樹木をもっておおわれ、それが次々と自然の力によって
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天平てんぴょう六年、海犬養岡麿あまのいぬかいのおかまろが詔にこたえまつった歌である。一首の意は、天皇の御民である私等は、この天地と共に栄ゆる盛大の御世に遭遇そうぐうして、何という甲斐がいのあることであろう、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「新思想の開拓者が、遭遇そうぐうするのは、嘲笑ちょうしょうと非難のほかの何物でもない。はじめてったきわめて教養の低い腕白小僧すら、彼らを見下していうのである。『彼らは愚かしいことに従事している』と」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
青島、おまえと堂脇との遭遇そうぐう戦についても簡単に報告しろよ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
主人も白と云う注文で買って来たのであるが——何しろ十二三年以前の事だから白の時代はとくに通り越してただ今は濃灰色のうかいしょくなる変色の時期に遭遇そうぐうしつつある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし哲学者として立言するには至らなかった。歴史においては、初め手を下すことを予期せぬ境であったのに、経歴と遭遇そうぐうとが人のために伝記を作らしむるに至った。
なかじきり (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それがはからずも、数十年後、自分と同じ夢の持主とこの世で遭遇そうぐうしたのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半三郎はこのほかにも幾多の危険に遭遇そうぐうした。それを一々枚挙まいきょするのはとうていわたしのえるところではない。が、半三郎の日記の中でも最もわたしを驚かせたのはしもに掲げる出来事である。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ああわれらモータル! あるいは今年の夏には他の二つの不祥に遭遇そうぐうせねばならぬかもしれません。私は葬式後初七日しょなのかの喪のあけぬまの、funèbre な空気のなかでこの手紙を書きました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
僕はずいぶん異なった境遇に遭遇そうぐうしたあまたの人に接して考える。教訓も忠告も、その百分の一も功の無きはこれを受ける人の真情に当たらぬのと、これを受ける人に対する同情のうすきによると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今から考えるとその時はすでに家の内に這入っておったのだ。ここで吾輩はの書生以外の人間を再び見るべき機会に遭遇そうぐうしたのである。第一に逢ったのがおさんである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは二十日ほど前に遭遇そうぐうした四条勧進田楽かんじんでんがく大椿事だいちんじのときである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信仰の問題についても私は一つの困難に遭遇そうぐういたしました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)