赤樫あかがし)” の例文
おかの麦畑の間にあるみちから、中脊ちゅうぜい肥満ふとった傲慢ごうまんな顔をした長者が、赤樫あかがしつえ引摺ひきずるようにしてあるいて来るところでありました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
アパートのどの窓からも殆んどうかがう事の出来ない程に鬱蒼たるくぬぎ赤樫あかがしの雑木林にむっちりと包まれ、そしてその古屋敷の周囲は
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
五尺もありそうな赤樫あかがしの木剣をつき出し、巨大な眼をかっとみひらいて、杢助の眼をかっきりと睨みながら、一歩、二歩と進んで来た。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「別に申上げなくてもお察し下さいましな。私だつて何時までも赤樫あかがしに居たいことは無いぢやございませんか。さう云ふ訳なのでございます」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この分だと、貫一の着た高等学校の制服だの、赤樫あかがしの持った鰐皮わにがわのカバンまで探して来るかも知れない。
「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅つつじちがって「あやになった木目を持つ赤樫あかがし
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と一尺八寸の小太刀をとって重蔵が立つと同時に、大月玄蕃も赤樫あかがしの木剣の柄へ両手がかかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千兩箱は最初から蓋だけ二重になつて居り、薄板の赤樫あかがしの上側の蓋を拔き取つて、打敷の下に隱せば、その下から分厚な薄汚れた千兩箱が出て來る仕掛になつて居りました。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
こう云ったのは石渡三蔵で、上段の間からヒラリと下りると壁にかけてあった赤樫あかがしの木剣、手練てだれが使えば真剣にも劣らず人の命を取るという蛤刃はまぐりばの太長いのをグイと握って前へ出た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小三郎も仙太の侠気おとこぎに感服して逢いたいと思う二人が、知らぬ事とは申しながら、仙太郎が赤樫あかがしの半棒で打込みましたが、武辺の心得ある侍は油断のないもので、片手に番傘を持ったなり
美田みたの源次が堀川ほりかはの功名にうつゝかして赤樫あかがしの木太刀を振り舞はせし十二三の昔より、空肱からひぢでて長劒の輕きをかこつ二十三年の春の今日けふまで、世に畏ろしきものを見ず、出入いでいる息をのぞきては
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
木理もくめうるわしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫あかがしを用いたる岩畳作りの長火鉢ながひばちむかいて話しがたきもなくただ一人、少しはさびしそうにすわり居る三十前後の女、男のように立派なまゆをいつはらいしかったるあとの青々と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小宮山は切歯はがみをなして、我赤樫あかがしを割って八角に削りなし、鉄の輪十六をめたる棒を携え、彦四郎定宗ひこしろうさだむねの刀を帯びず、三池の伝太光世みつよ差添さしぞえ前半まえはん手挟たばさまずといえども、男子だ、しかも江戸ッ児だ
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一滴でも油をこぼしたら、これだぞ」と云って、長者は傍に置いてある赤樫あかがしつえって見せました。長者はそのあかりで酒を飲んでおりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
派手な色柄の武者ばかまに水浅黄の小袖を着、たすき、鉢巻をして、赤樫あかがしの稽古薙刀なぎなたを持っている。口上が済むと、舞台の一方に三人の男があらわれ、紅白のまりを取って美若太夫に投げる。
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あの赤樫あかがし別品べつぴんさんね、あの人は悪いうはさが有るぢやありませんか、聞きませんか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ブーンと右手めて赤樫あかがしが虚空に唸って、地に落ちるかと思うと中段にピタリと止まる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇津木文之丞は生年二十七、さがふじ定紋じょうもんついた小袖に、たすきあやどり茶宇ちゃうの袴、三尺一寸の赤樫あかがしの木刀に牛皮のつば打ったるを携えて、雪のような白足袋に山気さんきを含んだ軟らかな広場の土を踏む。
仙太郎が欄間に掛ってありました赤樫あかがしの半棒を取って、そッと忍んで、二階の梯子段を下り、縁側伝いに来て障子の外から覗いて見ますると、三人ともきら/\する長いのを政七の鼻の先へ突き附け
長者は太い赤樫あかがしつえを持って、日毎ひごとに奴隷の前にその姿を見せました。赤樫の杖は、時とすると、奴隷どもの肩のあたりに蛇のようにひらめきました。奴隷どもはその杖を非常に恐れました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貫一はう事無しにけふりを吹きつつ、この赤樫あかがしの客間を夜目ながらみまはしつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
木は赤樫あかがしで、四尺七、八寸ある。櫂なので握りも太い。これに水分が加わっていたら普通の力では振るには困難であるし、正眼に持っていたら、支えているうちに疲れてしまうだろうと思われる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)