誘拐かどわか)” の例文
お夏を誘拐かどわかした礼に清水和助から貰った金が五十や三十あったはずだ。それを与三松は腕っ節が弱いくせに欲の深い伊太郎にやった。
「そうかも知れねえ。女を誘拐かどわかす悪党などというものは、悪智恵にけているから、滅多に追いつかれるような方角へ逃げる筈はねえ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それからの憂艱難と申しましたら……世間知らずの身の上が祟って……誘拐かどわかされたり売られたり……そのあげくがこんな身分に……」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
へい、あの婆様ばあさんはどこへ行ったか居りません。「そうだろう。彼奴あいつもしたたか者だ。お藤を誘拐かどわかして行ったに違いない。あのはまだ小児こどもだ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一瞥いちべつしつ「篠田の奴、実にしからん放蕩漢はうたうものだ、芸妓げいしや誘拐かどわかして妾にする如き乱暴漢ならずものが、耶蘇ヤソ信者などと澄まして居たのだから驚くぢやないか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
失礼は持前もちまえですからね、とてもお前さんのようにお上品なかおをして、人の娘を誘拐かどわかすようなことはできませんよ。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
亜米利加の男や女に独身生活者ひとりものが多いのは、そんな遊びのステキな気持ちよさを知っているからで、そんな人達に、方々から誘拐かどわかして来た、美しい男や女を当てがって
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「わかりました。……つまり、誘拐かどわかされた上、自分の髪で呉絽を織らされる……」
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
斯ういう身分の者でさえも恩義を知って命をすてても己を救うというに、手前は何うだ、人を殺し金をぶったくり、あるいは追剥ぎ或は他人の娘を誘拐かどわかして又は辱しめると云う、その悪行というものは
平次は、お静にいろいろのことを言い含めておいたはずですが、不思議なことに、誘拐かどわかされたお静からは、何の合図もありません。
殊に、女が誘拐かどわかされたとか、追剥おいはぎにあって裸にされたとかいう小事件は、街道筋には朝に夕にあることで、めずらしくもなんともない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「拙者だ、拙者だ、一式小一郎だ! ……卑怯姦悪未練の武士め! よくも桔梗様を誘拐かどわかしたな! 出せ出せ出せ! 桔梗様を出せ!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おお、可哀相にさぞ吃驚びっくりしたろう、すんでのことで悪漢わるもの誘拐かどわかそうとした。もういわい、泣くな泣くな。とせな掻撫かいなでていたわれば、得三もほっと呼吸いき
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女人を誘拐かどわかす卑怯未練の賊僧はそれよ。容赦なく踏み込んで召捕れやつと大喝すれば、声を合せて配下の同心、雪を蹴立てゝきおひかゝる。一方は峨々ががたる絶壁半天にかかれり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お滝とお前と共謀ぐるになってお松を誘拐かどわかして売ったに違いない」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次は、お静にいろいろのことを言い含めておいたはずですが、不思議なことに、誘拐かどわかされたお静からは、何の合図もありません。
「街道からこれへ誘拐かどわかして来た女子おなごわらべを返せ。——もし無事に戻して詫びるならば免じておくが、怪我などさせてあったら承知せぬぞ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はこっそり訴え出た。「娘を誘拐かどわかした同じ一座が、今度は息子をたぶらかそうとします。どうぞお取締まり下さいますように」と。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ええ、それで必定てっきり誘拐かどわかされたという見込でな。僕が探偵の御用を帯びて、所々方々と捜している処だ。「御道理ごもっとも。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魔法の巾着は警察で焼いてしまいましたから、もう誘拐かどわかされるものは無くなりました。
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
「おいおい、てめえは一人で、何か、夢を見ているんじゃねえか。何も俺が誘拐かどわかしたわけじゃあるめえし、嫌なら、いつでも帰るがいいぜ」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「驚いてはいけないよ、お前は川越屋音次郎の娘ではない。今から十七年前、音次郎に誘拐かどわかされて長崎へ行った、あの百松の娘のお染だよ」
行っておくんなせえ! ……云いたいことはたくさんあるんで……第一女が誘拐かどわかされたんで……若い女が、綺麗な女が……誘拐した野郎は猪之松の乾兒と
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この支那人が美代子さんを誘拐かどわかしているのじゃないのか知らんと思って、あたりを見まわしましたが、念のため横にある黒い箱にのぼって、その上にある小窓からガラス越しに中をのぞいて見ると
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
「待て待て、もう一つ言って聞かせる事がある。福屋善兵衛は五番目の倅を誘拐かどわかされて、なげきの余り、今朝死んでしまったぞ」
そこの辻堂の縁には新造身内のために、誘拐かどわかされてきた女が、いましめられた体をしずくに打たれたままほうり置かれているのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは上海シャンハイでございました。その裏町でございました。一人の女が誘拐かどわかされ、密房の中へ閉じ籠められ、眠らされたのでございます。黒檀の寝台には狼の毛皮。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春夫さんはあの支那人が誘拐かどわかしたに違いないと思いました。
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
新妻をさらわせるつもりの平次、祝言の席から誘拐かどわかされるつもりのお静、二人の気持を薄々読んだ客——この祝言は、まことに不思議なものでした。
游猟ゆうりょうが好きで弓を持ってけものを追ったり、早熟で不良を集めて村娘を誘拐かどわかしたり、そんなことばかりやっていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誘拐かどわかしたのは、雌雄二匹の永生の蝶々の、ありかを云わせようためだったのか。……でも妾はありかは知らない。雌蝶の方はお父様が、昆虫館から放してしまった
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……多分あっしが二人の女を誘拐かどわかしたんだろうテンデ
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
新妻をさらわせるつもりの平次、祝言の席から誘拐かどわかされるつもりのお静、二人の気持を薄々読んだ客——この祝言は、まことに不思議なものでした。
上尾街道で親のかたきと逢った。討って取ろうとしたところ、博労や博徒に誘拐かどわかされた。そのあげくに馬飼の長の、人身御供に上げられようとした。と敵に助けられた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえいの、まあ、聞いても。そればかりではない。わしがせがれ許嫁いいなずけのお通、それをまあ手なずけたりしての、友だちの女房ともきまった女子おなごをば誘拐かどわかして……」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五人の子供を一ぺんに誘拐かどわかす工夫はありませんよ。おどかしたって、だましたって、人目につかないように、どこへもつれて行けないじゃありませんか」
誘拐かどわかされたということを、告げるために走って行っていることに、一方留意をしなければならない。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「やあそれなる浪人輩ろうにんばら、白昼良民の娘を誘拐かどわかすとは不敵至極、渡さぬとあれば用捨はならぬぞ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誘拐かどわかされた子供は、ごとごとく暴力で連れて行かれた事の外に、日中も、夕方も、時刻かまわず人をさらっているくせに、場所だけは例外なしに、海か河か
はい、わたしは京橋の者、悪漢共に誘拐かどわかされ、蘆の間に押し伏せられ手籠めに合おうとしましたのを
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
落人おちゅうど追剥おいはぎ、あちゆる戦場稼いくさばかせぎ、火放ひつけ殺人誘拐かどわかし——やらない悪事はないくらいだからなあ
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「弱い武家」で通っているだけに、二十五六の良い男ですが、華奢きゃしゃで柔和で、どう見ても人間を誘拐かどわかしたり、やくざ者を斬ったりする柄とは思われません。
おいらは石地蔵の六といい、仲間は土鼠もぐらの源太といって、大した悪事もやらねえが、コソコソ泥棒、掻っ払い、誘拐かどわかしぐらいはやろうってものさ、さてそこでお前さんだが
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おお、良家の娘を誘拐かどわかそうとする理不尽りふじんな奴、それを、斬り捨てたが何と致した」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誘拐かどわかされでもしたんじゃあるまいかという話だろう。——あの眼から鼻へ抜けるような悧巧者のお由良が、金紋先箱で迎いに来たってだまされて行くものか」
その杉さんはどうしたかというに、誘拐かどわかされた女の兄さんて奴が——そうそう主水とか云ったっけ、そいつが陣十郎とかいう悪侍に、オビキ出されて高萩村の方へ行った。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「李司馬の甥が、天子を御輦みくるまにのせて、どこかへ誘拐かどわかして行きます」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの奉公人や、近所の人にも当ってみましたが、お春が花火を取りに家へ入ったのは知っていますが、勇太郎の誘拐かどわかされた姿は誰も見た者はなかったのです。
此奴こやつ! 女め! 不届き千万! ……萩丸様を誘拐かどわかすとは! ……返せ返せ当方へ返せ!」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こんなつらして、女を誘拐かどわかすなどとは、もってのほかな奴だ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)