裸身はだか)” の例文
きゃッ、と云うと、島が真中まんなかから裂けたように、二人の身体からだは、浜へも返さず、浪打際なみうちぎわをただつぶてのように左右へ飛んで、裸身はだかで逃げた。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南国の孤島において、しょう委員長は、あいかわらずの裸身はだかで、事務をっていた。例の太いひげはもう見えない。
裸身はだかで——そうよ、心も体も綺麗な裸身でぶつかって来られたので、俺らにゃア手が出せなかった。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
裸身はだかでは居られないので、天然の美を被ふのに、その顔によく似合つた色の布を選らむのは当然なことで、すこしでも美しいのをといふ心持ちが、色彩に敏くなり、模やうや
きもの (新字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
底冷えのする梅二月、宵といっても身を切られるような風が又左衛門の裸身はだかを吹きますが、すっかり煙にせ入った又左衛門は、流しにうずくまったまま、大汗を掻いて咳入せきいっております。
彼は砂糖黍さとうきびやぶのように積み上った街角から露路へ折れた。ロシア人の裸身はだか踊りの見世物が暗い建物の隙間で揺れていた。彼は死人の血色の記憶から逃れるために、切符を買うと部屋の隅へうずくまった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
再び、朱総しゅぶさをしごきざま、ちゅう鳴りして来る江府こうふばん壁辰の十手だ。喬之助は、この場合、血を好まなかった。が、こうなってはもう止むを得ない。裸身はだかのままたもとひそませていた河内太郎蛇丸かわちたろうじゃまるの短剣だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……した水際みづぎは岩窟いはむろに、つたり、すわつたり、手拭てぬぐひあやにした男女だんぢよ裸身はだかがあらはれたかとおもふと、よこまどからはうまがのほりとかほす、うまやであらう。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
裸身はだかでは居られないので、天然の美を被ふのに、その顏によく似合つた色の布を選らむのは當然なことで、すこしでも美しいのをといふ心持ちが、色彩に敏くなり、模やうや
きもの (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「お前の綺麗な裸身はだかを見せて、色情狂いろきちがいの範覚を迷わせてやろうと、もくろんだのさ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……と見ると艶々つやつやしたその櫛巻くしまき、古天井の薄暗さにも一点のすすとどめぬ色白さ。おしい事に裸身はだかではないが、不断着で着膨れていながら、頸脚えりあしが長くすらりとしていた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あさましいぐらい、恥ずかしいぐらい、血書き写経の荒修行に、たずさわっているわたしに比べ、何が何が、何あろう! ……それとも綺麗な裸身はだかは小次郎以外に見せたくないと、そう思ってのその言葉か!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
婦同士をんなどうし見惚みとれたげで、まへ𢌞まはり、背後うしろながめ、姿見すがたみかして、裸身はだかのまゝ、つけまはいて、黒子ほくろひとつ、ひだりちゝの、しろいつけぎはに、ほつりとあることまで、ようつたとはなし
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)