うわばみ)” の例文
案「狼は出ねえが、うわばみしゝが出まさア、なアに出ても飛道具とびどうぐウ持っているから大丈夫でいじょうぶでござりやす、あんた方の荷物をお出しなせえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのとき奥のくぐをあけて、副園長の西郷が、やや小柄の、うわばみに一呑みにやられてしまいそうな、青白い若紳士を引張ってきた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
筋骨逞しい裸体の巨漢がうわばみに巻き付かれて凄じい形相をして居る彫刻の傍に、例の青大将が二三匹大人しくとぐろを巻いて、香炉のように控えて居るが
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うわばみ、熊、狼、などといふものは、想像するほど人に危害を加へるものではない。うまく行くとよく馴れる。
又「うわばみおよし」の様な少しも悪いところのないのも悪婆で、「女団七」のお梶の様なのも善人なのだが、やはり悪婆の型に入るし、実に多種多様なものである。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「そう云えば長さ三間もある恐ろしいようなうわばみを、細工物のように扱った、あの腕だって大したものさ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
壁をあばいてみるとその中に蛇がいた。蛇の長さは一丈ばかりもあった。老人はそれを殺してしまった。そこで夢の中のうわばみは、すなわちその蛇であったということが解った。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と肩を一層、男に落して、四斗樽しとだるほどの大首を斜めに仰ぐ。……俗に四斗樽というのはうわばみの頭の形容である。みだりに他の物象に向って、特に銅像に対して使用すべきではない。
宵のうちは、ぽちりと赤く、うわばみの眼かと見えていた山荘の灯も、いつか滅して物凄く夜更けて行くうち、何者か? やかた築地ついじの破れから、ひらりと外へ跳り越えた二つの人影。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後漢の張道陵がうわばみに呑まれたのをその徒が天に上ったと信じたのにちょっと似て居る。
岩見重太郎いわみじゅうたろう大刀だいとうを振りかざしてうわばみ退治たいじるところのようだが、惜しい事に竣功しゅんこうの期に達せんので、蟒はどこにも見えない。従って重太郎先生いささか拍子抜けの気味に見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まむしにも青大将にもうわばみにも、あの悪く砂糖の利きすぎた脂気のない鰻はどうだ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あれぞ総大将成吉思汗ジンギスカンの弟、合撒児カッサルでござります。武芸並ぶ者なく、ことに、強弓衆に優れ、矢面に立つもの必ず額を射抜かれると申すこと。人々彼を怖れて、うわばみ綽名あだないたすごうの者です。
いやえらい人ですよ。スマトラに三年も居てうわばみ交際つきあいをしていたんです。資産もあるので、あの爬虫館を建てたとき半分は自分の金を出したんです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雨の夜は腐木くちきが燐火のように燃え、白昼沼沢地しょうたくちあしの間では、うわばみが野兎を呑んでいたりした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
傳「おい/\案内さん、少し待ってくんな、狼が出てもうわばみが出ても分らねえじゃねえかえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
悪たれ店子たなこの上に店賃は取れず、せたうわばみでも地内に飼って置くようなもんですから、もうくにも追出しそうなものを、変ったおやじで、新造がほれるようじゃ見処があるなんてね
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一とたび女人を見れば、能く眼の功徳を失う。たとい大蛇を見るといえども、女人をば見るべからず。」と、宝積経ほうしゃくきょうに書いてあるのが本当であるとしたら、山奥に棲むうわばみのように
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同院の僧居暁は博物ものしりなり、曰く蛇の眼はまたたかぬにこのうわばみの眼は動くから竜だろうと、止香をいて蟒に向い、貧道それがし青竜疏を念ずるに、道楽でなく全く母にうまい物を食わせたい故だ
これには土地のうわばみ見たやうな釣師も驚いてゐるであらう。
釣心魚心 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
「なるほど」帆村はまた鴨田の方へ向き直った。「莫迦ばかげたことをおたずねいたしますが、このうわばみは人間を呑みますか」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
途端に飛びかかるうわばみの胴を颯と斜めに切り付ける刹那、太刀は三段にバラバラと折れた。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
傳「どうだい、ひどい所だねえ、どうだえ、何んとか云ったッけ、磯之丞さん、ひどい所だねえ、此様こんな所じゃアないと思ったが、これじゃアうわばみも出ましょう、どうだい宇之さん」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(旅のものだ、いつでもというわけには行かない。夜を掛けても女を稼ごう。)——厚かましいわ。うわばみに呑まれたそうに、兀頭はげあたまをさきへ振って、ひょろひょろ丘の奥へ入りました。
また『和名抄』にじゃ和名わみょう倍美へみふく和名わみょう波美はみとあれば蛇類の最も古い総称がミで、宣長の説にツチは尊称だそうだから、ミヅチは蛇の主の義ちょうど支那でうわばみを王蛇と呼ぶ(『爾雅』)と同例だろう。
焚火に照らされて松の木の幹は、巨大なうわばみの胴のような姿を、薄銅色うすあかがねいろに光らせていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから一時間ばかりして、待望のうわばみ燻製くんせいが、金博士の地下邸ちかていへ届けられた。
馬「じゃアのもと三峰山みつみねさんのお堂のあった処だね、よくまア彼様あんな処にいるねえ、彼処あすこは狼やうわばみが出たとこなんだから、もっとも泥坊になれば狼や蟒を怖がっていちゃア出来ねえが、そうかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「有りました。とって置きの、すばらしい燻製です。ほかならぬ博士の御用命ですから、主人が特に倉庫を開きましてございます。それがあなた、珍味中の珍味、うわばみの燻製なんでございます」
まるでうわばみがあくびをしているようだ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)