華麗はなやか)” の例文
キュウカンチョウだの鸚鵡おうむだの、絵でしか見たことのないゴクラク鳥だの、見たことも聞いたこともない華麗はなやかな蝶だのが居りました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
灰色の毛皮の敷物のはしを車の後に垂れて、横縞よこじま華麗はなやかなる浮波織ふはおり蔽膝ひざかけして、提灯ちようちん徽章しるしはTの花文字を二個ふたつ組合せたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
海鼠なまこの氷ったような他人にかかるよりは、うらやましがられて華麗はなやかに暮れては明ける実の娘の月日に添うて墓に入るのが順路である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは他の女達とは比べものにならないような華麗はなやかきものを着ていた。その婦人の一行が近づいてくると、老嫗はそれに指をさしながら青年に向って言った。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかも、そのくせ表面うわべはと云えば、いかにも美しくいかにも華麗はなやかに、質朴で正直な田舎の人を誘惑するように出来ております。……それに反してこの笹の平は何んという結構な所でしょう
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
着實な事よりは、華麗はなやかな事に從ひたがる。温健な事よりは、矯激な事を悦ぶ。理性に殉ふよりは、感情に隨ひたがる。泣くよりは笑ひたがる。愁ふるよりは怡びたがる。勤むるよりは遊びたがる。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ういふひと談話はなしの間にも、女は高柳の側に倚添つて、耳を澄まして、夫の機嫌を取り乍ら聞いて居た。見れば、美しい女の数にも入るべき人で、こと華麗はなやかな新婚の風俗は多くの人の目を引いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
冷たそうにぎらつく肌合はだあい七宝しっぽう製の花瓶かびん、その花瓶のなめらかな表面に流れる華麗はなやかな模様の色、卓上に運ばれた銀きせの丸盆、同じ色の角砂糖入と牛乳入
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虎蔵は自分でも気付かないうちに身をかがめていた。床の上の華麗はなやか露西亜ロシア絨氈じゅうたんの上に腹匍はらばいになって、ソロソロとその寝台の脚下あしもとに忍び寄って行った。何故なぜともわからない焦燥を感じながら……。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
粲然ぱつとしたる紋御召のあはせ黒樗文絹くろちよろけん全帯まるおび華麗はなやかべにの入りたる友禅の帯揚おびあげして、びんおくれのかか耳際みみぎは掻上かきあぐる左の手首には、早蕨さわらび二筋ふたすぢ寄せてちようの宿れるかたしたる例の腕環のさはやかきらめわたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こんな華麗はなやかな話を聞くと、私ははたしてそれが自分の宅に起った事か知らんと疑いたくなる。どこか下町の富裕な町家の昔を語られたような気もする。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乾坤けんこんの白きに漂ひて華麗はなやかに差出でたる日影は、みなぎるばかりに暖き光をきて終日ひねもす輝きければ、七分の雪はその日に解けて、はや翌日は往来ゆきき妨碍さまたげもあらず、処々ところどころ泥濘ぬかるみは打続く快晴のそらさらされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
顧みれば顧みるほど華麗はなやかである。小野さんはおもむきが違う。自然の径路けいろさかしまにして、暗い土から、根を振り切って、日のとおる波の、明るいなぎさただようて来た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の隣に坐っていたお重が「大兄さんの時より淋しいのね」と私語ささやいた。その時はしょうや太鼓を入れて、巫女の左右に入れう姿もちょうのように翩々ひらひら華麗はなやかに見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗い玄関から急に明るい電灯のいたへやのぞいた彼の眼にそれが常よりも際立きわだって華麗はなやかに見えた時、彼はちょっと立ち留まって細君の顔と派出はでやかな模様もようとを等分に見較みくらべた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は年に合わして地味なコートを引きるように長く着ていた。敬太郎けいたろうは若い人の肉を飾る華麗はなやかな色をその裏に想像した。女はまたわざとそれを世間から押し包むようにして立っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)