自得じとく)” の例文
〔譯〕心理しんりは是れたての工夫なり、愽覽はくらんは是れよこの工夫なり。たての工夫は、則ち深入しんにふ自得じとくせよ。よこの工夫は、則ち淺易せんい汎濫はんらんなれ。
純然たる亜細亜アジア洲の旧慣に従い、居然きょぜん自得じとくして眼中また西洋なきが如くなるの一事なり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
のみち、たがねつべきかひなは、一度ひとたびてのひらかへして、多勢たせいあつして将棊倒しやうぎだふしにもする、おほいなる権威けんゐそなはるがごとくにおもつて、会心くわいしん自得じとくこゝろを、高声たかごゑらして、呵々から/\わらつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくの如き事を考ふれば、私の如く信仰といふこともなく、安心立命とは行かぬ流義の人間にても、多少世間の事にくるしめらるることなくなり、自得じとくするやうなる処も有之やう存候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
もと鎌倉藤源次助真が自得じとくしたきりで伝わらなかったのを、加卜これを完成し、世の太刀は死に物なり甲伏は活太刀かったちなりと説破して一代に打つところ僅かに百振りを出なかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
晏子あんしせいしやうり、づ。その(五六)ぎよつま(五七)門間もんかんより其夫そのをつとうかがふ。其夫そのをつとしやうぎより、(五八)大蓋たいがいようし、(五九)駟馬しばむちうち、(六〇)意氣揚揚いきやうやうとしてはなは自得じとくせり。
なくば此處こゝ自害じがいすると半狂亂はんきゃうらん面持おもゝち是非ぜひなく、自得じとくはふにより、眠劑ねむりぐすりさづけましたところ、あんごとくに效力きゝめありて、せるにひとしきその容態ようだい手前てまへ其間そのあひだ書状しょじゃうして、藥力やくりきつくるは今宵こよひ
左門は長窪の子供たちに読書や習字を教えながら、請うものには北辰夢想流ほくしんむそうりゅうの剣法も教えていたらしい。けれども「伝吉物語」「旅硯」「木の葉」等によれば、伝吉は剣法を自得じとくしたのである。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みな、自得じとく研鑽けんさんから通力つうりきした人間技にんげんわざであることが納得なっとくできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔譯〕がく自得じとくたふとぶ。人いたづらに目を以て有字の書を讀む、故に字にきよくし、通透つうとうすることを得ず。まさに心を以て無字の書を讀むべし、乃ちとうして自得するところ有らん。
人はすべからく死を畏れざるの理を死を畏るゝの中に自得じとくすべし、性にかへるにちかし。