腰衣こしごろも)” の例文
船尾ともの方に坐っている。青い頭の小法師である。年はようやく十四、五らしい。可愛い腰衣こしごろもをつけている。帆をあやつっているのである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腰衣こしごろもの素足で立って、すっと、経堂を出て、朴歯ほおば高足駄たかあしだで、巻袖まきそでで、寒くほっそりと草をく。清らかな僧であった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もう一つ、これは黙っているつもりでしたが、裏口のたらいの中に、濡れた腰衣こしごろもと、白無垢しろむくと、襦袢じゅばんとがありましたよ」
木綿ではございますが、鼠の着物に鼠の腰衣こしごろもを着け、気力の有りそうなお比丘尼でございまする。
と拍子ごとに云ふ踊で、姿は白衣びやくえ腰衣こしごろもを穿いた所化しよけを装つて居るのです。踊手は三人程で、音頭とりが長い傘をさして真中に立ち、その傘の柄を木で叩くのが拍子なのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
生れて初めての強敵を刺止しとめし事とて、ほつと一息、長き溜息しつゝ、あたり見まはす折しもあれ最前の若衆、血飛沫ちしぶき乱れ流れたる明障子あかりしやうじさつと開きて走り寄り、わが腰衣こしごろもに縋り付きつゝ
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
半ぺん坊主はこの時、腰衣こしごろもの上へ酒をこぼしたので、あわててそれを拭い
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒い頭巾に腰衣こしごろもは、飛んだ意氣なやつさ。ついでにそのおえのを生捕つて、昨夜幾松が何刻までゐたか聽いてくれ。どうせ晝は高瀬舟に乘つてゐるわけぢやあるめえ。
なるほど説明を聞いてみれば、何んでもないことではあったけれど、鼠の衣裳に腰衣こしごろもを付けた、縹緻きりょうのいい愛くるしい鯱丸が、真面目な顔をして話すのであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
カン/\とかねたゝきながら、提灯ちやうちんふくみましたやうに、ねずみ腰衣こしごろもをふは/\と薄明うすあかるくふくらまして、行掛ゆきがけに、はなしたばして、あし爪立つまだつて、伸上のびあがつて、見返みかへつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
火が移り燃上る焚火たきびの光で比丘尼ばゝあの顔を見ると、年頃五十五六ではあるが、未だでっぷり肥ったみず/\しい婆さんで、無地の濃花色こいはないろ布子ぬのこ腰衣こしごろもを着けて居りますのを
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
破れ障子から面を出したのは腰衣こしごろもをつけた人相のよくない大入道。
二十歳ばかりの目鼻立ちの柔和な若い弟子が、腰衣こしごろもを着けたまま井戸端で水を汲んでいたのです。
無地むぢ行衣ぎやうえたやうなものに、ねずみ腰衣こしごろもで、ずんぐり横肥よこぶとりに、ぶよ/\とかはがたるんで、水氣すゐきのありさうな、あをかほのむくんだ坊主ばうずが、……あの、たんですつて——そして
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
切り下げ髪を風になびかせ、また腰衣こしごろもを風に靡かせ、数百の尼が走って行く。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腰衣こしごろもを着けた六十近い尼が御燈明おとうみょうけに参りましたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二十歳ばかりの目鼻立の柔和な若い弟子が、腰衣こしごろもを着けたまゝ井戸端で水を汲んで居たのです。
一ツ狭い間をいた、障子のうちには、があかあかとして、二三人居残った講中らしい影がしたが、御本尊の前にはこの雇和尚やといおしょうただ一人。もう腰衣こしごろもばかり袈裟けさもはずして、早やお扉を閉める処。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「竹の笠に墨染めの腰衣こしごろも、乞食坊主にやつしたらどうかな」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黒い頭巾ずきん腰衣こしごろもは、とんだ粋なやつさ。ついでにそのおえのを生捕って、昨夜幾松が何刻から何刻までいたか聴いてくれ。どうせ昼は高瀬舟に乗っているわけじゃあるめえ。
それが済むと、寺の小坊主、年の頃十二三ばかりのが、墨染めの腰衣こしごろもを着け、手に長柄ながえきりを持って現われ、世話人の手で、厳重に目隠しをされ、札箱の後ろへ立たされました。