肢体したい)” の例文
旧字:肢體
共和政府では、軍隊や大学や国家のあらゆる肢体したいを実は脅かしてる、それら乞食こじき坊主や理性の狂信者らの密偵を、内々奨励していた。
こういう風に、日本の妖怪には切りはなされた肢体したいを非常に実想的にとりあつかってある。これらも「病的感」「不具感」である。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
一見、黒白混血児とわかる浅黒い肌、きりっとひき締った精悍せいかんそうなつらがまえ、ことに、肢体したい溌剌はつらつさは羚羊かもしかのような感じがする。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さきほどの連想からであろうか、じっと見ていると、それらの曲面が、アヘンの夢に拡大された、巨大な裸女の肢体したいのように感じられた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そういわれた瞬間、私の眼底がんていには、どういうものか、あのムチムチとした蠱惑こわくにみちたチェリーの肢体したいが、ありありと浮び上ったことだった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その中には彼の若い妻もいた。口には抑えているが、心のうちの淋しさは思いやられるのである。抱かれておののく彼女の肢体したいがそれを語っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
 熱帯地方の砂漠さばくの中で、一疋の獅子ししが昼寝をして居た。肢体したいをできるだけ長く延ばして、さもだるさうに疲れきつて。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
薄い毛織の初夏の着物を通す薔薇のとげの植物性の柔かい痛さが適度な刺戟しげきとなつて、をとめの白熱した肢体したいを刺す。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
感染せる肢体したいを切除するような、機械的な方法をば、真に、人間の更生と復活と救済の理想に向かって、徹底的に変改してしまう必要はないでしょうか……
長くあかじみて、親の金で遊んでいるくせにわれわれプロはという時、甚だうっとうしくなりがちであり、あるいは男のくせに妙に色気を肢体したいに表してへなへなする時
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あこがれの小柳雅子に、ついに私は会えたのである。その素顔、その肢体したいを、間近に、いくらでもみつめることができ、なんでも話のできる状態をついに持てたのである。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
小枝がゆれると、雀ははねるようにぴょんと隣りの小枝に飛びうつった。その肢体したいには、急に若い生命がおどりだして、もうじっとしてはおれないといった気配けはいである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
健康そうな肢体したいと、豊かなパーマネントの姿は、明日の新しいタイプかとちょっと正三の好奇心をそそった。彼は彼女たちの後を追い、その会話をれ聴こうと試みた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その怪物の透明な肢体したいの各部がいろいろ複雑微妙な運動をしている。しかしわれわれ愚かな人間にはそれらの運動が何を意味するか、何を目的としているか全くわからない。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どこかお店者たなものらしい若者でしたが、遠目に見届けたときのとおり、おりよくもそのときが断末魔へいま一歩という危機一髪のときでしたが、まだ肢体したいにぬくもりがありましたので
悩ましい肢体したいを惜しげもなくさらして、海水帽をってキラキラと黄金こがね色の髪を振り乱しながら……その二人に囲まれて、ただ私は黙々として上気し切っていたというよりほか
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
頭部に受けし貫一が挫傷ざしようは、あやふくも脳膜炎を続発せしむべかりしを、肢体したい数個所すかしよの傷部とともに、その免るべからざる若干そくばくの疾患を得たりしのみにて、今や日増に康復こうふくの歩をひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
胸の皮膚はくすぐられ、肉はしまり、血は心臓から早く強く押出された。胸から下の肢体したいは感触を失ったかと思うほどこわばって、その存在を思う事にすら、消え入るばかりの羞恥しゅうちを覚えた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
隅田川すみだがわでの恋人、「さくら」が、一足先きに艇庫ていこに納まり、各国の競艇のなかに、一際ひときわ優美エレガント肢体したいつややかに光らせているのをみたときは、なんともいえぬ、うれしさで、彼女のお腹を
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
庭の無花果いちじくの木かげに一枚の花莚はなむしろを敷いて、その上でそれ等の赤まんまの花なんぞでままごとをしながら、肢体したいに殆どじかに感じていた土の凹凸おうとつや、何んともいえない土のやわらか味のある一種の弾性や
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かれはむせかえる女体とにおいに包まれ、うごめく豊満な肢体したいに接し、人肉の大海に漂うただひとりの男性であった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
国会議事堂の上からころがり落ちた動くマネキン少年人形の肢体したいとともに、おなじ夜に紛失ふんしつした猿田の死体の顔とおなじであったから、ますます奇怪きかいであった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男は二十二三の艶々つやつやしい皮膚をした、外国人に負けない背のすらりと高い、肩はばも広い運動選手風の大学生で、女は十八九のこれも体格のいい、新鮮なピチピチした肢体したい
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
鍛練した目的はちがっていたが、こういう困苦に向って、彼の引きしまった肢体したいはいよいよはずんでいるようであった。けついだ血と、思い定めた一旦いったんの意志が烱光けいこうを放つのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あたりまえなら接近する事も困難なような貴顕のかたがたを丸裸にしてその肢体したいを大根かすりこぎででもあるように自由に取り扱って、そうしておしまいには肩や背中をなぐりつけ
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっているのであろうか。われわれとちがって、むしろ軟体動物にちかい肢体したいをもっているのはなぜか
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふるえているのはむしろ自分らのことであった。空腹と寒さが、灯を見てひしひしと肢体したいよみがえって来た。壮者の彼にそう感ずる苦痛は、女ども子供どもには、泣くほど辛いにちがいない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その肢体したいから、またかれらが皆女性であることは、その話し声から推察できた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしそれよりも、もっと直接に自覚的な筋肉感覚に訴える週期的時間間隔はと言えば、歩行の歩調や、あるいはつちでものをたたく週期などのように人間肢体したいの自己振動週期と連関したものである。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの若き婦人の肢体したい網膜もうまくの奥にきつけられたようにいつまでも消えなかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)