肌合はだあい)” の例文
たとえばセルロイドで作ったキューピーなどのてかてかした肌合はだあいや、ブリキ細工の汽車や自動車などを見てもなんだか心持ちが悪い。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
全然肌合はだあいのちがう嫁ではあるが——祖母には、その少年がたった一人の男の孫であり、その子の母親は私の父の兄の後妻であった。
そんな事は度々たび/\聞いたが、最早二度と再び来ないが、田舎者にはアいう肌合はだあいな気象だから、肌は許さぬとかいう見識が有るから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こいつ、仲間にしては小才こさいもあり、あかぬけのした肌合はだあいもあるので、巧みに、お蝶の心をとらえ、よからぬ悪智を吹きこんでいる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父おじが子供を岡本へやりたがらない理由わけは何だろうと考えた。肌合はだあいの相違、家風の相違、生活の相違、それらのものがすぐ彼の心に浮かんだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「関西人云うても、京都人は大阪人と大分肌合はだあいが違いまっせ。京都の人は、女はええけど、男はあんまりええことあれへん」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
酒だって江戸のあっさりしたほうが口に合うし、初めはやさしいと思った女にしても、馴れてみればべたべたした感じで、江戸の女たちのさらっとした肌合はだあいにはかなわない。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一体にがばしりて眼尻めじりにたるみ無く、一の字口の少しおおきなるもきっとしまりたるにかえって男らしく、娘にはいかがなれど浮世うきよ鹹味からみめて来た女にはかるべきところある肌合はだあいなリ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幽香子は、相当に美しくもあり、私の妹分で一緒に育った関係から、ピアノもかなり上手に弾きましたが、内気で陰鬱で引っこみ思案で、実業家の夫人という肌合はだあいの女ではありませんでした。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二葉亭を何といったらかろう。小説家型というものをあながち青瓢箪的のヒョロヒョロ男と限らないでも二葉亭は小説家型ではなかった。文人風の洒脱しゃだつな風流通人つうじん気取きどり嫌味いやみ肌合はだあいもなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
顔回のような夫子と似通った肌合はだあいの男にとっては、自分の感じるような不満は少しも感じられないに違いない。夫子がしばしば顔回をめられるのも、結局はこの肌合のせいではないのか。…………
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一刀流の剣法を習得したという肌合はだあいの人である。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美妙の母親は、江戸生れの者には、肌合はだあいが違う重っくるしさを、仲たがいをして離れている夫からとおなじにこの娘からも受取りながら
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
別段食いたくはないが、あの肌合はだあいなめらかに、緻密ちみつに、しかも半透明はんとうめいに光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
里芋の子のような肌合はだあいをしていたが、形はそれよりはもっと細長くとがっている。そして細かい棕櫚しゅろの毛で編んだ帽子とでもいったようなものをかぶっている。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
優しい肌合はだあいがあるものだから、だんだんそれにほだされて抜きさしがならないようになり、持って来た物までみんなぎ込んで、裸にされて放り出されてしまったのだが
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
話してみると、ぞんざい口も、罪がなくってなまめかしくって、どこやら、国貞くにさだうつしという肌合はだあい
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と聞いたのは、吾が夫と中村という人とは他の教官達とは全くちがっていて、肌合はだあいの職人風のところが引装ひきつくろわしてもどこかで出る、それは学校なんぞというものとはうつりの悪いことである。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冷たそうにぎらつく肌合はだあい七宝しっぽう製の花瓶かびん、その花瓶のなめらかな表面に流れる華麗はなやかな模様の色、卓上に運ばれた銀きせの丸盆、同じ色の角砂糖入と牛乳入
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藩のお抱士かかえともおぼえず、浪人という肌合はだあいではなし、何しろそまつな手織木綿ておりもめんの衣服で、しかも袖の形も一般の武家とは違い、はかまの下は脚絆きゃはん草鞋わらじで、腰の大小を斧と差しかえれば
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも後には、白か紫の唐縮緬モスリンになり、哀れなほど腰の弱い安縮緬ちりめんや、羽二重はぶたえ絞りの猫じゃらしになったが、どんな本絞りの鹿でも、ぐいと締る下町ッ子とは、何処か肌合はだあいが違っている。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その肌合はだあいなり気持なりは、矢張会社の重役と云うよりおたなの奉公人であって、昔はよくこう云う風な、腰の低い、口の軽い、主人の機嫌気褄きげんきづまを取ることや人を笑わせることの上手な番頭や手代が
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
眼のやり場にうろたえながら顔をあからめている女の様子に、弦之丞は初めて注意するのであった。しかしその身装みなり肌合はだあいは、どうみても、この辺の者らしくなく、江戸の下町に見馴れたつくりである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この肌合はだあいと、このがんを見て下さい」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)