禿頭とくとう)” の例文
やおらモーニングの巨体を起して眼の前の安楽椅子に旅行服のままかしこまっている弱々しい禿頭とくとうの老人の眼の前にその号外を突付けた。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕はお祖父さんのへやの隣りを勉強部屋にしているから、自然今紹介したような禿頭とくとう白頭の問答を耳にする。呑気で好い。自習も能く出来る。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
邸の修理をすべき職人はついに来ず、杉山は圓月荘に伺候しこうするのも全く、昔の恩義に対するサーヴィスで、自分も、この歳になりながら、禿頭とくとうの汗を拭きふき
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
神様が寺内首相のやうな小心者だつたら、そのコロツケの味付は乃公おれには相談が無かつたよと、禿頭とくとうカアテンのかげからのぞけて、一々お客に断つたかも知れない。
其處そこ居合ゐあはせた禿頭とくとう白髯はくぜんの、らない老紳士らうしんしわたしこゑふるへれば、老紳士らうしんしくちびるいろも、尾花をばななかに、たとへば、なめくぢのごと土氣色つちけいろかはつてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
美髯びせん禿頭とくとう、それがシヤツ、ヅボンしたに、大麥稈帽おほむぎはらぼうかぶつて、いましもはたみづつてところ
十年ほど前にある人から私の頭の頂上に毛の薄くなった事を注意されて、いまに禿げるだろうと、予言された事があるが、どうしたのかまだ禿頭とくとうと名の付くほどには進行しない。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして狩尾博士はS区に広大な脳病院を経営し、しかも、どし/\新研究を発表した。その風采も毛利先生は謹厳であったのに、狩尾博士は禿頭とくとうで、どことなく茶目気があった。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
灌木はミヤマはんの木のせさらばひたるがわづかに数株あるのみ、初めは草一面、後は焦沙せうさ磊々らい/\たる中に、虎杖いたどり鬼薊おにあざみ及び他の莎草しやさう禾本くわほん禿頭とくとうに残れる二毛の如くに見るも、それさへせて
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
春の風には百日咳ひゃくにちぜき黴菌ばいきんが何十万、銭湯には、目のつぶれる黴菌が何十万、床屋には禿頭とくとう病の黴菌が何十万、省線の吊皮つりかわには疥癬かいせんの虫がうようよ、または、おさしみ、牛豚肉の生焼けには
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あれはまさしく六郎氏が態々註文して拵えさせたもので、そうしたことには極端に神経質であった彼は、静子との寝室の遊戯の際、絵にならぬ彼の禿頭とくとうを隠す為、静子が笑って止めたにも拘らず
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そばにひかえている禿頭とくとうんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
検事の名前は鶴木つるきといって五十恰好の温厚そうな童顔禿頭とくとうの紳士、予審判事は綿貫わたぬきという眼の鋭い、痩せた長身の四十男で、一見したところ
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして帰り道に保証人のH弁護士をたづねてこの話しをすると、弁護士はとがつた禿頭とくとうを横にふつて、そんなことでは今期の増俸はとてもむづかしからうといつた。
ある朝当時自分の勤めていたR大学の事務室にちょっとした用があってはいって見ると、そこに見慣れぬ年取った禿頭とくとうのわりに背の低い西洋人が立っていて、書記のS氏と話をしていた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
呑んだくれの禿頭とくとう詩人を贔屓ひいきにして可愛がる一方に、当時、十九か十八位の青年進士呉青秀に命じて、あまねく天下の名勝をスケッチして廻らせた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ある学科関係の学者の集合では、かなり年寄りも多いのに一人も禿頭とくとうがいない。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
禿頭とくとう首相1・29(夕)
俎橋まないたばしの警察に駈付けて来た禿頭とくとうの丸柿親爺おやじは、娘の無事な顔を見ると泣いて喜んだが、手錠をかけられた男を見ると血相を変えて掴みかかろうとした。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
B教授の禿頭とくとうの頂上の皮膚に横にひと筋紫色をしてくぼんだ跡のあるのを発見した刑事が急に緊張した顔色をしたが、それは寝台の頭部にある真鍮しんちゅうの横わくが頭に触れていた跡だとわかった。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
意気込んでいる草川巡査の吶弁とつべんを、法服のまま静かに聞き終った禿頭とくとう、童顔の鶴木検事は草川巡査の質朴を極めた雄弁にスッカリ釣込まれてしまったらしい。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
禿頭とくとうは万平に向って手を合せてペコペコした。娘の手を引いて万平の前に連れて来てお礼を云わせた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのアトは父の気に入りの津金勝平つがねかつへいという執事みたいな禿頭とくとうの老人と、親よりも誰よりも八釜やかましい古参の家政婦で、八木節世やぎせつよという中婆さんが、うち中の事を切まわしているので
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その幸福を攪乱かきみだし、冷笑し、罵倒し、その幻想の全体を極めて不愉快な、索然たるものにしてしまうのはマユミの父親の頑固な恰好をした禿頭とくとうと、母親のおおかみみたような乱杙歯らんぐいばの笑い顔であった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とか『生んだ記憶おぼえの無い実子に会った孤独の老嬢の告白』『列車の衝突で気絶したと思っているに、禿頭とくとうの大富豪になっていた貧青年の手記』『たった一晩一緒に睡った筈の若い夫人が、翌朝になると白髪しらがの老婆に変っていた話』
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)