)” の例文
と云うと今度はその小窓と反対側の低いドアを開けて、そこに掛かっている鉄の梯子はしご伝いに奇妙なぶしい広い部屋へ降りて来ました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眼がう。隣歩きで全然すっかり力が脱けた。それにこのおッそろしい臭気は! 随分と土気色になったなア! ……これで明日あす明後日あさってとなったら——ええ思遣られる。
「いや、そればかりでない。その石のほとりに近寄るものは忽ちに眼がうて倒れる。獣もすぐにたおれる。空飛ぶ鳥ですらも、その上を通れば死んで落つる」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つめの甲のそこに流れてゐる血潮ちしほが、ぶる/\ふるへる様に思はれた。かれつて百合ゆりはなそばへ行つた。くちびるはなびらく程近くつて、強いまでいだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二等煉瓦のちまたには行人既にまれなるも、同胞新聞社の工場には今や目もふばかりに運転する機械の響囂々がう/\として、明日あすの新聞を吐き出だしつゝあり、板敷の広き一室
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ベンヺ 馬鹿ばかな! そこがそれ、おさへられ、げんぜられるためしぢゃ。ぎゃく囘轉まはるとうたのがなほり、ぬるほど哀愁かなしみべつ哀愁かなしみがあるとわすれらるゝ。
そのぶしい音楽は負傷兵ふしやうへいの鳴らす釣鐘のやうに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船員も乗客も一斉にデッキを目がけて飛び出して来た。御丁寧な奴は卒倒ひっくりかえったという話だが……しかしこっちは眼をわすどころの騒ぎじゃない。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つめの甲の底に流れている血潮が、ぶるぶるふるえる様に思われた。彼は立って百合の花の傍へ行った。唇がはなびらに着く程近く寄って、強い香を眼のうまでいだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
香華かうげみだるゝばゆさに
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
これからのち、藍丸王が見たいろいろの出来事は、当り前の者ならばその都度つど驚いて、眼でもわして終わなければならぬような事ばかりであった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
こうして見上げるだけでも眼がいそうなんだよ、お母さんには。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
意訳すると豪胆、勇壮、この上なしの偉人という名前なんだから、大抵の奴が眼をわしたね。最小限華族ヤンパンぐらいには、到る処で買冠かいかぶられたもんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……が……しかし、ここで眼をわしたり何かしたら大変な事になると思ったので、モウ一度両手を突いて、気を取り直しつつソロソロと立ち上った。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
善悪共に社会のトップのトップを切った記事をりすぐって、ほかの新聞と競争して行かなければならない……と云ったら大抵の人間が眼をわすだろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ウ——ンと云うなり眼をわしてしまったが、その黛夫人の幽霊に介抱をされてヤット息を吹き返したので、今一度、気を落ち付けてよく見ると、又驚いた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのままぶしい縁側の植え込みに眼を遣ったが、その眼には涙を一パイに溜めている様子であった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ところで、それは先ず結構としても、その最極上のアルコールをアラキのまま大衆に飲ませようとするからたまらない。大抵の奴は眼をわして引っくり返ってしまう。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……その中のどこにも吾児わがこらしい声は聞こえない……どこの物蔭にも太郎らしい姿は発見されない……全く意外千万なぶしさと、華やかさに満ち満ちた世界のまん中に
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
青年はぶしそうに眉香子を見上げた。眉香子の魅力に負けたように深々と緞子の椅子に沈み込んだ。そうした自分自身を淋しくアザミ笑いながらパチパチと眼をしばたたいた。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは大抵の貴族が眼をわすくらいのお金に価するもので、私の生命にも換えられぬ貴重品なのですが、このお話の真実性を認めて、私の運命を決定して下さるお礼のためには
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
王様の住居すまいはこんなものであろうかと思われる位で、お出迎えに出て来た娘の同胞きょうだいや家来共の着物に附けている金銀宝石の飾りを見ただけでも当り前の者ならば眼をわして終う位でした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ツイ今しがた自分の頭の中から掴み出して床の上にタタキ付けた眼に見えない或るものを、片足を揚げて一気に踏み潰す真似をすると同時に、ウーンと眼をわして床の上に引っくり返ってしまう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)