疳高かんだか)” の例文
綺麗な疳高かんだかい、少し野趣やしゅを帯びた笑声がはじけるように響いた。皆んながおたけの方を見た。人見がこごみ加減に何か話しかけていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ホホホホまだ分らないんですか」と今度はまた庭まで響くほどに疳高かんだかく笑う。女は自由自在に笑う事が出来る。男は茫然ぼうぜんとしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼のボーが鳴ると、機械の騒音が順々に吸われるように落ちて行って——急に女工たちの疳高かんだかい声がやかましく目立ってきた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
二けん隣に長唄の師匠があって疳高かんだかい三味線の音をその灰いろの道のうえに響かせていたのを昨日のことのようにまだわたしは覚えている。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この大きな魚漁家の娘の秀江は、疳高かんだかでトリックのわずらわしい一面と、関西式の真綿まわたのようにねばる女性の強みを持っていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いいや、わしのことなら大丈夫でござりまするわい……」と、胸一ぱいに繃帯ほうたいをした顔色の悪い男が、疳高かんだかい声で叫んだ。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
月の西のとがりの直ぐ上に、月と殆ど同じ明るさに光る星を見た。黒み行く下界の森では、鳥共の疳高かんだかい夕べの合唱。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「お房や、些と先生せんせいをお起し申し上げたらいじやないか。だツて、もうお午だよ。」と甘ツたるいやうな、それでゐて疳高かんだかい聲がする。お房の母親の聲だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
カーキイ服の憲兵が庭へ鮮人を引き出して、着物を引きはいで裸にしたお尻をむちでひっぱたいている。ひとーつ、ふたーつ、憲兵の疳高かんだかい声がきこえて来る。
天井の低い、一部屋だけの、梯子段はしごだんの上り口から、七輪や炭の俵の置いてあるところを通つて、破れたふすまぎはへ立つと、あの聞きおぼえのある、加野の疳高かんだかい声で
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「いかさま……」東洋史専攻の謙蔵氏は、だしぬけに東洋中に響き渡るやうな疳高かんだかな調子で言つた。
ちょうど鶏がトキをつくる際のけたたましさに似た、思いがけない疳高かんだかい声でやるのだ。どこにいても、それこそずいぶん遠くにいても、その咳で、「リュウさん」とわかるのだという。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
眼は燃えたってき、あおざめた顔には赤味がさしてき、声は疳高かんだかになってきた。その焼きつくすような情火とそのまきになってるみじめな身体との対照を、クリストフは眼に止めざるを得なかった。
通りかかった火の番小屋の中から、疳高かんだか浪花節なにわぶしの放送がれてきた。声はたいへんゆがんでいるけれど、まさしく蒼竜斎膝丸そうりゅうさいひざまるの「乃木将軍墓参のぎしょうぐんぼさんの旅」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
茶時ちゃどきででもあるのか、部屋の中には母の疳高かんだかい話し声や笑い声が娘たちの声に交って陽気にきこえていた。が、母の姿はいつまで経っても現われてこなかった。
突然遠くから或る鈍い物音と、続いて、短い・疳高かんだかい笑声とが聞えた。ゾッと悪寒が背を走った。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
無暗むやみ疳高かんだかに子供は笑った。母親は、勝利は自分のものだと見てとると、指についた飯粒を、ひとつひとつ払い落したりしてから、わざと落ちついて蠅帳のなかを子供に見せぬよう覗いて云った。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その瞬間に勢いよく玄関の格子戸こうしどががらっとあいて「おゝ寒い」という貞世の声が疳高かんだかく聞こえた。時間でもないので葉子は思わずぎょっとして倉地から飛び離れた。次いで玄関口の障子しょうじがあいた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
と、疳高かんだかい声の男が、ぼくを指先につまみあげて、眼のそばへ持っていった。熱い息が、下からぼくを吹きあげる。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
その途端に私は何かしら悪いことが起ったような感じがして、じっと聞耳を立てると、テントの外から、又、妙に疳高かんだかい声が響いて来た。その声がどうやら趙大煥らしいのだ。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「ふみや、ちょっとこの木の枝を折っておくれ」と祖母の疳高かんだかい声が私を呼んだ。はっと思って私はあわてて本をふところの中に入れた。が何しろ四六判四百頁近い本なので懐は不様ぶざまにふくれ上っていた。
廊下に立って、そっと耳をましてみると話しているのは、アンと、そしてもう一人は男の声だった。言葉は、フランス語だった。男の声は、いやに疳高かんだかい。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
澗間たにま凹地おうちに引出された女どもの疳高かんだか号泣ごうきゅうがしばらくつづいた後、突然それが夜の沈黙にまれたようにフッと消えていくのを、軍幕の中の将士一同は粛然しゅくぜんたる思いで聞いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
主人の名を呼ぶ署長の声はだんだん疳高かんだかくなり、それと共に顔色が青くなっていった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鳳凰樹ほうおうじゅの茂みの向うから、疳高かんだかい——それでいて何処どこか押しつぶされたような所のある——チャモロ女の合唱の声が響いて来る。スペインの尼さんの所の礼拝堂から洩れてくる夕べの讃美歌である。
ただ——それから一町ほど先で、カチリと金属のれあう疳高かんだかい音響が聞えた。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しきりと疳高かんだかい東京弁で訳もわからないことを呶鳴りちらしていた筈である。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが入ってみると、上の方で大きなものの暴れるガタンガタンとひどい音だ。うなるような吠えるような声がする——。そこへ突然私の名が呼ばれた。疳高かんだかいが、まぎれもなく帆村の声だった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どこからあの家へ行けるんだろう」と兄が疳高かんだかい声で叫びました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高かんだかい悲鳴だった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おう、組長、大変だア」疳高かんだかい声で叫ぶものがある。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
横合よこあいから、疳高かんだかい声が聞えた。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)