疎遠そゑん)” の例文
けれども鎌倉を去つたのちは日夏君ともいつか疎遠そゑんになつた。諸君は皆健在らし。日夏君は時々中央公論に詩に関する長論文を発表してゐる。
「仮面」の人々 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(例へば、遠く離れ、永い間逢はない、まつたく疎遠そゑんになつた親戚の間に、日頃の疎遠に拘らず、素性を辿れば、源をいつにしてることを主張する)
自分じぶんをばみち疎遠そゑんひとだと諦念あきらめ、べつみち親密しんみつひとがゐるやうにおもつて、それを尊敬そんけいするひとがある。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
其他そのた裁判官さいばんくわんも有る、会社員も有る、鉄道の駅長も有る、なかには行方不明ゆくへふめいなのも有る、物故ぶつこしたのも有る、で、銘々めい/\げふちがふからしておのづから疎遠そゑんる、長い月日には四はうさんじてしまつて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
記憶きおくの、次第しだいしづんで痕迹あとかたもなくなるまで御互おたがひかほずにすごほど宗助そうすけ安井やすゐとは疎遠そゑんではなかつた。二人ふたり毎日まいにち學校がくかう出合であばかりでなく、依然いぜんとして夏休なつやすまへとほ徃來わうらいつゞけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あづか渡世とせい寸暇すんかなければ中々田舍ゐなかへ尋ね行事などは思ひもよらず心にかゝる計りにて今迄疎遠そゑん打過うちすごしたり夫に付ても此間の手紙に細々こま/″\と言越たるには追々おひ/\不時ふじの災難や水難旱損かんそんの打續きて思はぬ入費ものいりの有しゆゑ親のゆづりの身上も都合つがふしくなりし由じつに當時の世の中は田舍も江戸もつまがちしか呉々くれ/″\返事へんじ言遣いひつかはしたる通り親は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕等は、「天神様」の外へ出た後、「船橋屋ふなばしや」の葛餅くずもちを食ふ相談をした。が、本所ほんじよ疎遠そゑんになつた僕には「船橋屋」も容易に見つからなかつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は疎遠そゑんになることに何等の苦惱も感じなかつた——和解に對する何等の熱望も感じなかつたのだ。