たもと)” の例文
漸くのことで子供を言ひすかしまして、それから橋のたもとの方へ連れて行きました。そこに煙草と菓子とを賣る小さな店があります。
あるかれは、わか時分じぶん下宿げしゅくしていたことのあるところとおりました。はしたもとにあった食堂しょくどうは、もうそこになかった。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
伊作はある年の夏、橋のたもとに小さな居酒屋をこしらえましたが、村には一軒も酒屋がなかったので、この居酒屋が大層繁昌はんじょうしてだんだんもうかって行きました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
また、両国橋のたもとに、飛入とびいり剣術の小屋がけがあった。見物人のうちに交じっていた次郎右衛門忠明が、時折、苦笑をするのを見て、その興行者たる自称天下無双の兵法者が
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は高麗橋こうらいはしたもとまで来て立ち止まった。菊子は泣いている。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
それから鉄道馬車の通う日本橋のたもとへ出るか、さもなければ人形町から小伝馬町の方へ廻って、そこで品川通いのがた馬車を待つかした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まちなかかわながれていた。はしたもと食堂しょくどうがありました。かれはこのいえともだちといっしょにさけんだり、食事しょくじをしたのでした。和洋折衷わようせっちゅうのバラックしきで、室内しつないには、おおきなかがみがかかっていました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは真勢さんが築地の方のある橋のたもとに小さな靴屋を開業していた頃のことだ。捨吉はまだ学校の制服を着始める頃であった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
橋のたもと佇立たたずんで往来を眺めると、雪に濡れた名物生蕎麦きそばうんどんの旗の下には、人が黒山のようにたかっておりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
国への江戸土産みやげに、元結もとゆい、油、楊枝ようじたぐいを求めるなら、親父橋おやじばしまで行けと十一屋の隠居に教えられて、あの橋のたもとからよろいの渡しの方を望んで見た時。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本がこの寺院おてらを出て、ポン・ナフの石橋のたもとへかかった頃は、まだ空はいくらか明るかった。ヴィエンヌ河の両岸にあるものは皆水に映っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は独りで旅館を出て、大学の建築物たてものわきをある並木街へと取り、オステルリッツの橋のたもとまで歩いて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう思って、三吉が見送った時は、酒の香にすべての悲哀かなしみを忘れようとするような寂しい、孤独な人が連の紳士と一緒に柳の残っている橋のたもとを歩いていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
欄干の支柱にからかねの擬宝珠ぎぼしのついた古ぼけた橋のたもとから、当時「青い戸袋」と呼びなされた屋敷長屋のペンキ塗りの窓の下の方へかけて、いっぱいの人で
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
橋のたもとにいる半玉を呼んだというものです——到頭、あの日は、皆なでってたかって私を捕虜にして了った
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あのオステルリッツの石橋のたもとからセエヌ河の水を見て来た眼で、彼は三年の月日の間忘れられなかった隅田川の水が川上の方から渦巻き流れて来るのを見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
田辺の家の昔に比べると、今はすべての事が皆の思い通りに進みつつある。それが捨吉にも想像される。人形町にんぎょうちょうにぎやかな通を歩いて行って、やがて彼は久松橋のたもとへ出た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
半蔵らが橋のたもとまで急いで行って見た時は、本所方面からのとびの者の群れが刺子さしこの半天に猫頭巾ねこずきんで、手に手に鳶口とびぐちを携えながら甲高かんだかい叫び声を揚げて繰り出して来ていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仕掛花火も終った頃、三吉は正太と連立って、もう一遍橋のたもとまで出て見た。提灯ちょうちん万燈まんどうけて帰って行く舟を見ると、中には兜町方面の店印をも数えることが出来る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
両国から親父橋おやじばしまで歩いて、当時江戸での最も繁華な場所とされている芳町よしちょうのごちゃごちゃとした通りをあの橋のたもとに出ると、いもの煮込みで名高い居酒屋には人だかりがして
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大きな石の砂に埋っている土橋のたもとあたりへ高瀬が出た頃は、雨が彼の顔へ来た。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芝公園の中を抜けて電車の乗場のある赤羽橋のたもとまでもいて来た。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)