ひた)” の例文
空にそびえている山々の巓は、この時あざやかな紅に染まる。そしてあちこちにある樅の木立は次第に濃くなる鼠色ねずみいろひたされて行く。
木精 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
風呂場にれば、一箇ひとりの客まづ在りて、燈点ひともさぬ微黯うすくらがり湯槽ゆぶねひたりけるが、何様人のきたるにおどろけるとおぼしく、はなはせはしげに身を起しつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
原口はらぐちたき、いはれあり、さんぬる八日やうか大雨たいう暗夜あんや、十ぎて春鴻子しゆんこうしきたる、くるまよりづるに、かほいろいたましくひたりて、みちなる大瀧おほたきおそろしかりきと。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
清きうしほにひたりつつ、かうべをあげてまさに日の出でむとする方に向へば、刃金はがねいかづちの連亙起伏する火山脈の極るところ
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あゝ惡き狂へるめしひの慾よ、苟且かりそめの世にかく我等をそゝのかし、後かぎりなき世にかくさちなく我等をひたすとは 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今まで、一時間近く、水押に水をひたせる船頭は、玉網片手にすごすご身を起し来りて。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
我はみづから面のくが如く目の血走りたるを覺えて、きれ鹹水しほみづひたして額の上に加へ、又水をわたり來る汐風しほかぜすこしをも失はじと、衣のボタン鬆開しようかいせり。されど到る處皆火なるを奈何いかにせん。
ひたしていないなら、ここへ昔の学生が、学校の鞭の
オーケアノスの潮流に彼のみひたることあらず。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
老木の蔭を負ひ、急湍きゆうたんなみひたりて、夜な夜な天狗巌の魔風まふうに誘はれてえもしぬべき怪しの物なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)