流行歌はやりうた)” の例文
榛軒は流行医で、四枚肩のかごを飛ばして病家を歴訪した。其轎が当時の流行歌はやりうたにさへ歌はれたことは既にかみに記した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その中にはどうやら人間が入っていたらしく、そいつが妙な流行歌はやりうたを歌ったのだね。それから、この間の三河島だ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
稍ともすれば流行歌はやりうたを口にして一句毎に「……てえんだらう」といふ呟きが口癖の何々フアン、とかいふ仇名の青年、これはまた酷く気軽で拭掃除でも
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
子供の癖に尾籠びろう流行歌はやりうたを大声にうたいながら、飛んだり、跳ねたり、曲駈きょくがけというのを遣り遣り使に行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
パリからの新しい流行歌はやりうたを、リエージュでいちばん先に歌うのもこの中尉である。パリ下りだというイカモノの歌劇歌姫オペラシンガーに、一番に花輪を贈るのもこの中尉である。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夕方の配達を済ました牛乳の空罐あきかんを提げながら庭を帰って行く同級生もあった。流行歌はやりうたの一つも歌って聞かせるような隠芸のあるものはこの苦学生より外に無かった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
妾ヤングからおそわった通りに呑気のんきそうに流行歌はやりうたを唄いながら、その調子に合わせてっていたから、外から聞いたって何かほかのものをたたいているとしか思えなかった筈よ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柳生様は二階笠ということは、流行歌はやりうたでよく唄うので、はっと思い出したのであろう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金色こんじきいろどりたる高き円天井まるてんじやう、広き舞台、四方の桟敷さじきに輝き渡る燈火の光にはんが為めなれば、余は舞姫多く出でゝかしましく流行歌はやりうたなど歌ふ趣味低きミユーヂカル、コメデーを選び申候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
声のいい女は流行歌はやりうたをうたった。H町へつくと丁度夜が明けかける。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あゝ此樣こんことつたら何故なぜ倫敦ロンドンへん流行歌はやりうた一節ひとふしぐらいはおぼえてかなかつたらうとくやんだが追付おひつかない、あまりの殘念くやしさに春枝夫人はるえふじんかほると、夫人ふじんいま嘲罵あざけりみゝにして多少たせうこゝろげきしたと
それから大将の首と手下の首とは陽気に流行歌はやりうたの合唱をはじめた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
いい髯面の男だてらに女の着物を着て可憐なソプラノを張りあげ、発狂当時覚えたものであろう古臭い流行歌はやりうたを夜昼なしに唄いつづけては、われとわが手をバチバチ叩いてアンコールへの拍手を送り
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
一日降つたしめやかな雨が、夕方近くなつてあがつた。ときたならしい子供等が家々から出て来て、馬糞交りの泥濘ぬかるみを、素足でね返して、学校で習つた唱歌やら流行歌はやりうたやらを歌ひ乍ら、他愛もなく騒いでゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は血のたれる唇を、だらしなくいて、三十年以前の流行歌はやりうたを怒鳴り始めた。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
流行歌はやりうたにも、職をさがしている牢人の顔つきにも、混色こんしょくしているのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから大将の首と手下の首とは陽気に流行歌はやりうたの合唱をはじめた。
土の中の馬賊の歌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
戞々かつかつと、外国奉行の使番つかいばんが、馬蹄ばていを飛ばせてゆく、何事か、早打駕はやうちが、三挺もつながって行った。——菊は栄えるあおいは枯れる——の流行歌はやりうたをうたった子供の親が自身番へしょッかれて行く。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)