おまへ)” の例文
「あの鵞鳥の事を言はつしやりますのか。あれはおまへ折角のお越ぢやからと思つて、たつた今絞め殺して汁の身に入れときましたぢや。」
あの眼のクルクルと大きい厭味な洋服姿の秋月の奴が現在おまへのゐる前であのキザな十題話の落しに面白をかしく間男の意見をして見せた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其親分の家を尋ぬれば、其処へおまへが行つたが好いか行かぬが可いか我には分らぬ、兎も角も親方様のところへ伺つて見ろと云ひつ放しで帰つて仕舞はれ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「それを云ふだけで役に立つか。おまへは何故それを実行しない。何故実行しないかツ!」と隊長は云ひさま砕ける程テーブルをたゝいて、続けさまに怒鳴り立てた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
日出雄ひでをや、おまへちゝとは、これから長時しばらくあひだわかれるのだが、おまへ兼々かね/″\ちゝふやうに、すぐれたひととなつて——有爲りつぱ海軍士官かいぐんしくわんとなつて、日本帝國につぽんていこく干城まもりとなるこゝろわすれてはなりませんよ。
一生、おまへなしにはゐることは出来ない、死なう、いつそ死んで了はう
女と情と愛と (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
我等に附纏いつきまとふのはいつでもおまへ、乳房の運び手
おまへは愚鈍な木に違ひない。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
さりながらあの市ヶ谷の監獄生活は誠に貴い省察と静思との時間をおまへに与へたと、鏡の中から悲しげな両の瞳が熟視みつめる……
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのあとで鴈治郎は一ぱし物識ものしりらしい顔をして、英吉利ではいぬも洋服を着てゐるさうだから、おまへも是非洋服を着ねばならぬと、女房かないに言つて聞かせた。
喃お吉、源太は酷く清吉を叱つて叱つて十兵衞が所へ謝罪あやまりに行けとまで云ふか知らぬが、其は表向の義理なりや是非は無いが、此所はおまへの儲け役、彼奴を何か、なあそれ、よしか
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
『これ、稻妻いなづまおまへすぐれたるいぬだから、すべての事情じじやうがよくわかつてるだらう、よく忍耐しんぼうして、大佐たいさいへたつしてれ。』と、いふと、稻妻いなづまあだかわたくしげんごとく、凛然りんぜんとしてつた。
「一体おまへは何処だね? 塩山かね」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
おまへは愚鈍な木である。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
あれから苛酷な世の嘲笑と圧迫は日夜続いた、それでもおまへは能く耐えた、と又剃刀が冷たい辷りを額に続ける……
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かうしてたがひに自分達の弱みを知つてゐるから、それをおまへに繰り返させまいとするからの事だといふのだ。
あゝ十兵衞夫婦は訳の分らぬ愚者なりや是も非もないと、其儘何とも思しめされず唯打捨て下さるか知らねど、世間はおまへを何と云はう、恩知らずめ義理知らずめ、人情解せぬ畜生め
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
武村兵曹たけむらへいそうくわしくおまへからかたつてあげい。』
だがおまへは愚鈍な木だ。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
おまへつばくろ不在るすつばくろの巣に入り、の十二時過ぎ迄も話し込み早く帰れよがしに取扱はれても、それを自分に対する尊敬と思ふ程、それ程自信の深い好人物だ。」
凧の絲の鋭い上にも鋭いやうに瀝青チヤンの製造に餘念もなかつた時、彼女かれは恐ろしさうに入つて來た、さうして顫へてる私に、Tonka John. おまへのおつかさんは眞實ほんとのお母さんかろ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「西洋を知らない。ほんとにおまへさんのやうな鈍間のろまなんざ、一人だつてありはしないよ、西洋には。」
雨がふる、いつそ殺してしまひたいほど憎くらしいおまへの髪の毛に。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「政党は何方どつちが好きだね、おまへは。政友会か、憲政会か、それとも国民党かな。」
おまへはやつて来る……ふるひながられいの房のついた尖帽せんぼうをかぶつて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水面に空にふりそそぐ、まるでおまへの神経のやうに。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おまへけるか」10・28(夕)