杉垣すぎがき)” の例文
片側は真暗に戸を閉めた人家、片側はまばらな杉垣すぎがきで囲った墓地の所へ出た。たった一つ五燭ごしょくの街燈が、倒れた石碑などを照していた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしあえて買わなかった。杉垣すぎがきに羽織の肩が触れるほどに、赤い提灯をよけて通した。しばらくして、暗い所をはすに抜けると、追分の通りへ出た。かど蕎麦屋そばやがある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八は向側の、五爪竜やぶからしからんでゐる杉垣すぎがきの処に雨にれながら立つて、ぼんやり此様子を見てゐたが、別当が門を締めに出て来るとき、殆ど無意識にぬかるみ道を歩き出した。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この秋海棠しうかいだう杉垣すぎがきのまだかれないまへから、何年なんねんとなく地下ちかはびこつてゐたもので、古家ふるやこぼたれたいまでも、時節じせつるとむかしとほくものとわかつたとき御米およね
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大きな百日紅ひゃくじつこうがある。しかしこれは根が隣にあるので、幹の半分以上が横に杉垣すぎがきから、こっちの領分をおかしているだけである。大きな桜がある。これはたしかに垣根の中にはえている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然をどうでもいいと思っている高柳君もこの菊だけは美くしいと感じた。杉垣すぎがきはるむこうに大きな柿の木が見えて、空のなかへ五分珠ごぶだま珊瑚さんごをかためてめ込んだように奇麗に赤く映る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もと枯枝かれえだまじつた杉垣すぎがきがあつて、となりには仕切しきりになつてゐたが、此間このあひだ家主やぬしれたときあなだらけの杉葉すぎは奇麗きれいはらつて、いまではふしおほ板塀いたべい片側かたがは勝手口かつてぐちまでふさいで仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つい此間このあひだまでまばらな杉垣すぎがきおくに、御家人ごけにんでもふるしたとおもはれる、物寂ものさびいへひと地所ぢしよのうちにまじつてゐたが、がけうへ坂井さかゐといふひと此所こゝつてから、たちま萱葺かやぶきこはして、杉垣すぎがきいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)