くち)” の例文
さるほどに親族うからおほくにもうとんじられけるを、くちをしきことに思ひしみて、いかにもして家をおこしなんものをと左右とかくにはかりける。
その人かげのあとから、幾年いくねんくちつんだ落葉おちばをふんで、ガサ、ガサと、歩いてくる者があった。小具足こぐそくをまとった武士ぶしである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重なり合い折れくちている雑草の上をすんだ空気が、飄々ひょうひょうと流れ、彷徨さまようのを鈍い目で追跡し、ヤッと手を伸ばせば、その朽草くちくさの下の、月の破片かけら
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ところを、君達きみたち、それ春家はるいへ。と、そでこと一尺いつしやくばかり。春家はるいへかほいろくちあゐのやうにつて、一聲ひとこゑあつとさけびもあへず、たんとするほどに二度にどたふれた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本の文語に於ける假名遣と云ふもの、此の韁は決してくちて用に堪へぬ樣になつて居るのでは無い、まだ十分力のあるものだと云ふことを自分は信じて居ります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
自然は自己の造化を捨てず、神は己の造りしものをかろんずべけんや、彼のたいくちしならん、彼の死体を包みし麻のころもは土と化せしならん、しかれども彼の心、彼の愛、彼の勇
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
牝牡めすをすおなじあなこもらず、めすの子あるは子とおなじくこもる。其蔵蟄あなごもりする所は大木の雪頽なだれたふれてくちたるうろ(なだれの事下にしるす)又は岩間いはのあひ土穴つちあな、かれが心にしたがつる処さだめがたし。
そろへ何故と申儀しかと存じ候はねども常々つね/″\老母らうぼが我々に申候には嫁が孝行かうかうに致してくれるはうれしけれども生甲斐なき我が身が居るゆゑ孝行なる嫁に苦勞くらうかけ老先おいさきの有者を此儘にくちさするは憫然あはれなり是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我れはこのまゝくちはてぬとも、せめては此子を世に出したきに、いかにもして今ひとたび戻りくれよ、長くとには非ず今五年がほど、これに物ごゝろのつきぬべきまでと、頼みつすかしつげきけるが
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
灰色に鬱々うつうつとした雲は、おおいかぶさるように空をめ、細い白茶しらちゃけたみちはひょろひょろと足元を抜けて、彼方かなた骸骨がいこつのような冬の森に消えあたりには、名も知らぬ雑草が、重なりあって折れくちていた。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)