明媚めいび)” の例文
ポカラという所はネパール山中では甚だ美しい都会であたかも日本の山水明媚めいびなる中に別荘が沢山建ててあるかのごとくに見えます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
やがて白骨の温泉場に着いて、顧みて小梨平こきなしだいらをながめた時は、お雪もその明媚めいびな風景によって、さきほどの恐怖が消えてしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こういうものに比べて見たときに、このいわゆる「油絵」の温雅で明媚めいびな色彩はたしかに驚くべき発見であり啓示でなければならなかった。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしながら天然の風光が明媚めいびで、また、四時の巡環が順序よく行われる、その天恵を享受しているこの日本にあっては
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
明媚めいびな風光と新式の宝蔵殿は一切を居心地のよい観覧地と化してしまった。これが人生の常なのかもしれないが、私にとっては何となく不安なのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
陽はほとん椰子やし林に没して、酔いれた昼の灼熱しゃくねつからめ際の冷水のような澄みかかるものをたたえた南洋特有の明媚めいび黄昏たそがれの気配いが、あたりをめて来た。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翌日、南加サウスカルホルニア大学で、ていを借りられるとのことで、練習に行きました。金門湾をまわって、オオクランドに出て、一路坦々たんたん、沿道の風光は明媚めいびそのものでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大河の水にまかせた一葉の小舟は、かなり長時間、世の耳目じもくから遠ざかって、明媚めいびな風光のうちにただよっていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここには限らず、古来著名の神社仏閣が多くは風光明媚めいびの地、もしくは山谷嶮峻の地をそうして建てられていると云う意味を、今更のようにつくづく感じた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
更に下つて歌麿豊国に至るやその正確にして切迫せる写生の気味は最早もはや何らの音楽的幻想をも許さず、ひたすら写像の明媚めいびに対する造形的快感を覚えしむるのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
薄寒き棟割長屋アパルトマンの一室にて祝うことになったが、コン吉たるもの、風光明媚めいび、風暖かに碧波おどる、碧瑠璃海岸コオト・ダジュウルの春光をはるかに思いやって鬱々うつうつとして楽しまず、一日
ず自然について考えれば、一般に人々は、青い海や松原があるところの、風光明媚めいびの景を詩だと言う。もしくは月光に照らされてる、蒼白あおじろい夜のながめを詩的だと言う。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
夜は山精木魅さんせいもくびの出でて遊ぶを想はしむる、陰森凄幽いんしんせいゆうの気をこらすに反してこの霽朗せいろうなる昼間の山容水態は、明媚めいびいかでかん、天色大気もほとん塵境以外じんきよういがいの感無くんばあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こっちの風景は明媚めいびであるけれども、景色そのものが自身で飽和している。そこから或るつまらなさ。北方の荒涼として情熱的なところがない。それでいてこの辺は乾いている。
どこよりも風景の明媚めいびな須磨の浦に源氏の大将が隠栖いんせいしていられるということを聞いて、若いお洒落しゃれな年ごろの娘たちは、だれも見ぬ船の中にいながら身なりを気に病んだりした。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
殊に春さき、——庭の内外うちそとの木々の梢に、一度に若芽のえ立つ頃には、この明媚めいびな人工の景色の背後に、何か人間を不安にする、野蛮な力の迫つて来た事が、一層露骨に感ぜられるのだつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
気候温和にして風光明媚めいびなよいとこはないなアと満足するにちがいない。
関西の豊麗、瀬戸内海の明媚めいびは、人から聞いて一応はあこがれてもみるのだが、なぜだか直ぐに行く気はしない。相模さがみ駿河するがまでは行ったが、それから先は、私は未だ一度も行って見たことが無い。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、この七千尺の大屏風の中に描かれた典雅にして明媚めいびなる大和絵の数々は一行の人の心を陶然として酔わしむるに充分でありました。
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふもと明媚めいびな風光がひらかれてきたと思うと、また下のほうから、いとものどかな鼻唄調子が聞えてきた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雀宮ヲ過ルヤ晃峰こうほう乾位けんいニ望ム。突兀とつこつトシテ半空ニそびユ。諸山ソノふもとヲ擁シ扶輿磅礴ふよほうはくタルコトソノ幾十里ナルヲ知ラズ。時ニ晩霽ばんせい。夕陽明媚めいび。山色ことごとク紫ナリ。昏暮こんぼ宇都宮ニ投ズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
月と日をてのひらの中に得たような喜びをして、入道が源氏を大事がるのはもっともなことである。おのずから風景の明媚めいびな土地に、林泉の美が巧みに加えられた庭が座敷の周囲にあった。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いにしえの人はここに来て、須磨や、明石や、和歌の浦の明媚めいびをうたわないで、いかになる身にかけて来る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
絶佳ぜっか明媚めいび山水さんすい粉壁朱欄ふんぺきしゅらん燦然さんぜんたる宮闕きゅうけつうち、壮麗なる古代の装飾に囲繞いじょうせられて、フランドル画中の婦女は皆脂肪あぶらぎりてはだ白く血液に満ちて色赤く、おのが身の強健に堪へざる如く汗かけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、岐阜ぎふの里は、山水明媚めいびな城下だった。町並びもうるわしかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明媚めいびという感じに打たれて、思わず気分に多少のびやかさを感じたのみならず、宿の自分たちの部屋が、ちょうど宮川にのぞんでいて、小さいながら行く水の面影に、人の世の情味をきく
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)